梅雨時、打線が湿るのは、バッターが体調を崩すという理由からだけではない。比喩ではなく、本当にバットが湿ってしまうのである。

 三冠王を3度獲得した落合博満は、バットが湿るのを避けるため、ジュラルミンケースに保管していた。

 用具メーカーの担当者から、こんな話を聞いたことがある。
「一見、豪放磊落に映る落合さんですが、道具へのこだわりは並じゃない。体だけじゃなく、バットのコンディションにまで気を使っていた。だから梅雨時、若い人がバットを放り出したりしているのを見ると、心配になる反面、がっかりしてしまいますよ」

 カープの打撃コーチ・新井宏昌も梅雨時、バットの保管には人一倍、気を使った選手のひとり。当時、新品のバットはビニールの袋に包まれていた。ところがグリップエンドの部分に穴が開いており、そこから湿気が入るのではないか、と新井は懸念した。バットを包むビニール袋を二重にしてくれ、とメーカー側に提案したのは、私が知る限りでは新井が最初である。

 バットの重さは、10グラム違っただけでもスイングには影響が出る。30グラムも違えば他人のバットを振っているようなものだろう。新井のようなコーチがカープにいるのは心強い。“湿らない打線”でピッチャーを援護してもらいたいものだ。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)

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