FIFA女子ワールドカップカナダ大会は日本時間2日、決勝トーナメント準決勝でなでしこジャパン(日本女子代表、FIFAランキング4位)が、イングランド女子代表(同6位)と対戦した。なでしこは前半33分、PKのチャンスを得て、MF宮間あやのゴールで先制。しかし40分、逆にPKを与えて同点に追いつかれる。後半は幾度となくピンチを迎え、苦戦を余儀なくされたが、ロスタイムにMF川澄奈穂美のクロスが相手のオウンゴールを誘い、激戦に決着をつけた。2大会連続の決勝進出となったなでしこは、前回に続き、米国女子代表(ランキング2位)と連覇をかけて激突する。

 劣勢しのぎ、劇的勝利(エドモントン)
日本女子代表 2−1 イングランド女子代表
【得点】
[日本] 宮間あや(33分)、オウンゴール(90+1分)
[イングランド] ファラ・ウィリアムズ(40分)
 苦しんで苦しんだ末に幸運が待っていた。
 1−1で試合は90分を経過。延長突入の雰囲気も漂い始めていたロスタイム、川澄が自陣からの縦パスを受け、右サイドを突破。「相手のサイドバックが下がっていたのが見えた。仕掛けていけば、いいところにボールあげられる」と素早いクロスを入れる。

 前線の大儀見優季、岩渕真奈がゴール前に走りこみ、相手のDFが必死で足を伸ばす。だが、下がりながらのクリアボールがバーを叩いてゴールを割った。なでしこにとってはラッキー、イングランドにとってはアンラッキーなオウンゴールだ。歓喜に包まれるなでしこベンチと、がっくりとうなだれるイングランドの選手たち。最後の最後で明と暗がくっきり分かれた。

 イングランドは過去1度も勝ったことがない相手。立ち上がりから、シンプルにボールを前線に運び、なでしこゴールを脅かした。一方、3戦連続、同じスタメンで臨んだなでしこは、佐々木則夫監督が指摘したように「疲労が重なり、ひとりひとりプレーの質が今ひとつ」で、攻撃が思うようにつながらない。

 チャンスを迎えたのは21分だ。宮間あやが左サイドからドリブルで侵入。中央に切り込んで、後方から上がってきたDF鮫島彩にボールを預ける。フリーの鮫島は左足を振り抜いたが、ミドルシュートはバーの上を通過した。

 さらに31分、ボランチの阪口夢穂が自陣から右サイドへロングフィードを供給。「阪口にボール入った瞬間に思い切って飛び出した」と相手サイドバックの裏をとったのがDF有吉佐織だ。同じ日テレ・ベレーザに所属する2人の呼吸がピタリと合い、ボールがPA内で有吉の足元に収まる。たまらず、相手が後ろから押し倒し、レフェリーはファウルの判定。なでしこがPAを得た。

 これをキッカーの宮間が、落ち着いて相手GKとの間合いをはかりながら、ゴール中央に沈める。1−0。今大会、すべて先制しているなでしこが待望の1点をあげた。

 しかし、イングランドもすかさず反撃に転じる。39分、CKからゴール前での競り合いの中で、大儀見が相手をひっかけて倒してしまった。レフェリーはファウルのジャッジ。PKとなって、これをMFファラ・ウィリアムズに決められた。1−1と試合は振り出しに戻って前半を終了する。

 後半に入ると試合は徐々にイングランドペースに。「イングランドの動きが非常に良くて、受けきれなかった。ボールを動かしてリズムを変えることができなかった」と指揮官が認めた通り、なでしこは押しこまれるシーンが目立った。

 17分にはクリアボールを拾われて、中央のFWトニ・ダガンが右足でシュート。バーに当たり、救われる。続く19分も自陣でボールを奪われ、途中出場のFWエレン・ホワイトに左足を振り抜かれる。これはGK海堀あゆみが横っ飛びで反応し、弾き出した。さらにCKからFWジル・スコットにヘディングシュートを浴びるが、わずかにゴール左。なでしこは我慢の時間帯が続く。

 局面を打開すべく、佐々木監督は岩渕を投入。オーストラリア戦では決勝弾を決め、「流れを取り返そうと思った」という“切り札”は得意のドリブル突破でチャンスをつくる。28分には左から中央へ斜めに仕掛けてシュート。なでしこはリズムを取り戻し、試合は一進一退の攻防となる。

 31分には岩渕からボールを受けた宮間がクロスをあげ、ファーサイドに。阪口がヘッドで相手ゴールに迫る。イングランドも43分に長い距離のFKを獲得し、ゴール前へ。海堀がパンチングで逃れ、その後の混戦もなでしこが必死にクリアした。

 そして、やってきたロスタイムでの勝ち越し点。「後ろが点を獲られなければ、いつか前線の選手が点を獲ってくれるだろうと思った。しっかり我慢してできて良かった」と攻守に躍動した有吉は充実の表情で熱戦を振り返った。
 
 決勝で顔を合わせるのは米国だ。これで世界大会では3度続けてファイナルを戦う格好になる。前回のドイツW杯では2−2のまま、延長戦でも決着がつかず、PK戦を制して、初優勝を手にした。翌年のロンドン五輪では追い上げ及ばず、1−2で敗れて銀メダルだった。

 過去の対戦成績は1勝6分23敗。文字通り、連覇への大きく厚い壁となる。「ファイナルは思い切ってやらしてあげたい」と佐々木監督はチャレンジ精神を強調した。

「世界大会3大会連続で決勝でアメリカとできることはうれしい」(川澄)
「最高の舞台で最高の相手と戦える」(岩渕)
 各選手が最強の相手と対決する喜びを口にする中、キャプテンの宮間は、「オリンピックは金メダルを持っていかれている。W杯は渡さない気持ち」と力強く言い切った。史上2チーム目の偉業へ、日本時間6日朝、なでしこが最終決戦に臨む。