いい医者とは、どのようなものだろう、と考えることがある。

 たとえば、頭痛がするとか、吐き気がするとか、ちょっと体調が悪いんですよ、と医者にかかったとする。

「カゼかな」「疲れでしょう」「薬出しておきますから、様子を見てください」

 とりあえず様子を見て、早い話が何もしないに等しい。おおかた、原因は疲れやストレスや飲みすぎだろうから、通常はまあ、これでいいのだろう。

 もうひとつのタイプとして、「『○○』という病気の可能性もあるから検査しましょう」という医者もいる。もしかしたら、めったにないことかもしれないが、重大な病気を早期発見できる可能性はある。だから行動を起こす。でも、きっと検査代が無駄になるケースのほうが圧倒的に多いですよね。

 どっちがいいのだろう。私は医者ではないが、人間のタイプとして明らかに前者である。早い段階で何か思いきった手を打つ後者のような生き方ができない。要するに決断が遅い。乱世には生き残れないタイプだな。

 野球の監督にも、似たようなことが言えると思う。

 6月10日の埼玉西武戦。先発ローテーションを担ってきた大瀬良大地が、プロ入り後、はじめてのリリーフ登板をした。緒方孝市監督が決断をしたのである。

 たぶん、この決断は遅きに失した。

 大瀬良をクローザーにまわしてはどうか、という意見を最初に聞いたのは、4月中旬から下旬くらいだっただろうか。その日、テレビ中継の解説者だった西山秀二さんがおっしゃった。たしか、「今年限定という条件つきで、大瀬良を後ろにまわすしかないと思うんですよね」という発言だったと思う(実はこの中継の録画がなく、記憶に頼って書いている。記憶ちがいだったら、お詫びします。ただ、この着想はすばらしいと思うのだ)。

 今季のカープが極度の貧打に苦しみ、セットアッパーと抑えが安定せず、1点差ゲームを落として最下位に沈んでいるのは周知の事実だ。

 大瀬良は先発で好投した試合もあるが、なかなか勝利に結びつかなかった。勝ち星がふえなかったのには、不運な側面も多い。しかし、ボールには力がある。クローザーとしての最大の必要条件は満たしている。

 将来的には、先発で、エースに育てなければいけない存在だろう。だが、チーム事情と彼の今季の情況を考えて、抑えにまわす、という発想は非常にいい。しかも、それを4月の段階で発想し得たことに感服する。

 以来、カープの試合は、大瀬良をクローザーにしてはどうかなあ、と思いながら見てきた。でも、オレにはそんな決断はできないな、と自分で自分を打ち消しながら。なにしろ、とりあえず様子を見る派ですから。

 こういう派の人間は往々にして、あとからぐずぐず思うのだが、今にして思えば、おそらく5月上旬くらいの時点で、首脳陣は決断すべきだったのでしょうね。

 その間に、実際のカープ首脳陣は、中崎翔太をクローザーに育てる方針を選択した。デュアンテ・ヒースに見切りをつけることに関しては果断だったけれど、中崎は我慢して起用してきた。中崎本人は、クローザーとして、いま彼にできる最大限の仕事をしていると思う。そこは、大いに評価すべきだろう。

 しかし、これから勝負の夏場を迎える。ラッキーなことに、最下位でありながら上位との差は大きくなく、まだ優勝の目は消えていない。

 大瀬良の初リリーフは中継ぎだった。野手の失策もからんで2回で2失点した。決していい投球ではなかった。そこには、まだリリーフに不慣れ、という側面があるだろう。だからこそ、決断は遅かった、と言いたい。

 だが、まだ間に合うとも言える。あくまでも、今季限定だが、最終的には、大瀬良をクローザーにする、という構想を描きながら,勝負の夏に向かっていっていいのではあるまいか。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)

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