前半戦のカープのMVPは、まちがいなくブラッド・エルドレッドである。去年まで大型扇風機に等しかったエルドレッドを、一時は三冠王かというところまで変身させたのは、野村謙二郎監督の直々のアドバイスのおかげだそうだ。したがって、エルドレッドは敬意をこめて、野村監督を「ケニー」と呼ぶ。

 実際、われらがケニー・野村がベンチで、なにやらエルドレッドに話をした次の打席でホームランを打った、なんてマンガみたいなシーンもあった。

 そんな神通力も、もはや消え失せてしまったのか。8月は13日までで42打数2安打の大不振。ケニーはとうとう2軍降格という決断を下した。

 不振に陥った原因は、ほぼ想像がつく。いつの頃からか、エルドレッドのコメントに「ホームランは試合を左右するインパクトをもっているからね」という趣旨のものがふえた。

 気持ちはわかる。あの悪夢の9連敗を止めたのもQVCマリンで放った彼の満塁ホームランだった。もちろんホームランには試合を左右するだけのインパクトはある。

 しかし、最近の打席を見ていると、ホームランの魔力に取り憑かれて、ボールの軌道と関係なく強振を繰り返してしまっているようだった。ただ、問題はこの2軍落ちを、エルドレッドが素直に受け容れられるかだ。9月に必ずペナントレースを左右する大勝負がやってくる。そこで前半戦のような活躍をしてもらうには、ケニーとブラッドが腹を割って直接話し合うしかないだろう。

 ホームランの魔力とともに、自分が4番だというプライドも、いまや持ちすぎるくらい持っているに違いない。それに対して、外角のスライダーを右にタイムリーを打ったこともあるじゃないか、あのバッティングだよ、と納得させられるかどうか。監督の対話力にかかっている。

 もうひとり、不振を脱することができないでいるのが、大瀬良大地である。これも、原因ははっきりしていると思う。だって、評論家諸氏がもっとも得意とする言葉「開きが早い」というのが、ぴったり当てはまっているではないですか。

 開きが早くて、ヒジが下がっているから、ボールの角度も失われ、打者の手元での球威を欠く。監督、コーチが的確なアドバイスをして、修正にとりくむべきだろう。不思議なのは、投打のキーになる、この2人に対して、そういうことがなされているように見えない点だ。だから、出てくる毎に同じ失敗をくり返す。

 堂林翔太にも、同じことが言える。たしかに5安打の大活躍をした試合もある。しかし、基本的には、落ちるボールは苦手、というのはもはや広く知れ渡っていることではあるまいか。たとえば、巨人の大竹寛が堂林に打たれたとき、「ツボはわかっているのに」と悔しがった。要するに、そういうことである。

 だとすれば、単に試合に出すだけではなく、弱点を克服する練習、ないしはロードマップを、本人と監督・コーチが共有すべきだろう。なぜか、そんな気配がないんですよね。

 カープは「天は自ら助くる者を助く」という思想で運営されているのだろうか。福井優也が復活しかけているのは、チェンジアップ系のボールを投げ始めたのが大きいとみるが、あれとて実は自力で工夫したのだろうか。

 そういえば、12日のウエスタンリーグでは、今村猛が6安打2失点で完投勝ちしている。今村は先発に転向するのだろうか。それもひとつの方法だとは思うが、そこに、はたしてチームとしての方針はあるのだろうか。

 チームとして、エルドレッドと大瀬良をどう立て直すのか、という明確なプランが見えないようでは、勝負の9月が大いに不安である。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)

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