今、カープの話をするのは、けったいくそが悪いですねぇ(北別府学さんはテレビ解説で「しゃくにさわる」という表現を選んでおられた)。

 というわけで、松坂大輔(メッツ)の話から。6月10日(現地時間)のブルワーズ戦に先発し、6回3安打1失点5奪三振と好投し、3勝目をあげた。

 え、松坂って、まだメジャーで投げていたの? なんて言わないこと。不振が続き、右肘手術もあり、ここ数年、たしかにもがき苦しんでいた。もうダメなのではないか、と思った人も少なくはあるまい。

 今季もマイナーからスタートし、メジャー昇格後も中継ぎで起用され、このところ、ようやく先発のチャンスをつかんだばかり。もう、かつてのように剛球で打者をねじ伏せるスタイルではない。

 でも、たとえば10日の試合を見ていると、とにかく右腕を強く鋭く振るのである。たとえ変化球でも、思い切り腕を振る。ときおり、ストレートやスライダーが高めに浮くこともあったが、なんとか抑えられたのは、この腕の振りの賜物だろう。

「日本のエース」というような重い看板を背中から降ろして、彼はふっきれたのである。だからマウンドでの姿が、生き生きとしている。こんなことは、ここ数年、なかった。

 さて、カープ。6月9日まで、ご承知の通り泥沼の6連敗である。「泥沼のコイ」という朝日新聞(8日付)の見出しは秀逸だったけれども、なにしろ、九里亜蓮3回9失点(6日)、大瀬良大地2回途中10失点(7日)、ブライアン・バリントン5回途中6失点(8日)という、3日連続の序盤での大量失点負けはひどい。もう、見たくないものからは目をそらして知らないふりをするしかない、と言いたくなる。

 復調のヒントは9日の野村祐輔にあると思う。強打のオリックス打線を相手に6回2失点と好投した。

 たとえば4回裏無死、パ・リーグ最強打者と言ってもいい糸井嘉男を迎えたところ。粘られてカウント3-2から、野村はストレートを投げた。これは高めやや甘く入って、やられたかと思ったが、センターフライに打ち取った。

 野村は球速のある投手ではない。基本的には、変化球のコントロールで勝負する投手である。それが、フルカウントから裏をかいてのストレート。球速は140キロにいかないくらいだったと思う。それでも糸井は凡フライに終わった。なぜか。強く思い切り腕を振って投げたからである。

 野村は開幕から打ち込まれる試合が続いて2軍落ち。この日が1軍復帰登板だった。そのせいで期するものがあったのだろう。この日は、1球1球、とにかく強く腕を振る姿が印象的だった。

 そう、10日のブルワーズ戦での松坂のように――。

 今季はチーム全体の意志として優勝を目指し、その言葉通り、序盤は首位を快走してきた。それを支えたのは前田健太、大瀬良、バリントンを中心とする投手陣である。

 しかし、交流戦に入って負けが込んでくると、前田も大瀬良もバリントンも、無意識のうちに結果をほしがりすぎて、腕の振りが鈍くなっていなかっただろうか。それで連鎖反応的に、泥沼にはまり込んでしまったのだ。

 そういう意味で、ヒントは9日の野村であり、10日の松坂なのである。ちなみに松坂は、チームの連敗を6で止める快投だった! あやかりたいものだ。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
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