編集長が国際便の機上の人となったのは、3日前のことでした。取材のため、米国に行かれたのです。

 米国に到着した編集長から国際電話が入ったのは、その20時間後のことでした。
「えっ!? ないんですか?」
 電話を受け取ったスタッフの大きな声に、他のスタッフの手が止まりました。

「どうしたの?」「何がないって?」「忘れ物?」
「資料がないらしいんです……」
「えっ!?」

 スタッフ一同、驚いたのも無理はありません。実は、編集長が事務所を出る際、資料を準備したHさんが「資料は持たれましたか?」「資料は忘れていませんか?」と何度も念を押していたのです。そのたびに編集長は「大丈夫、大丈夫。ちゃんと持ったから」と余裕の返答をしていたのを、私たちスタッフは全員、耳にしていたのです。

 しかし、事務所では見当たらず、やはり編集長は持って行かれたことは確かなようでした。では、いったいどこに……?

 資料がどこでなくなったのかが判明したのは、編集長が帰国されてからのことでした。
「編集長、結局、資料は見つからなかったんですか?」というスタッフの問いに、「あ、そうそう、どこでなくしたか、帰りの飛行機でわかったんだよ。飛行機の座席の脇に隙間があってさ、そこに落としたんだ。まぁ一度、機内で目を通していたから良かったけどね」と編集長。全員、「あぁ、なるほど。そうだったんですか」と納得しました。

 しかし、なぜ編集長は帰りの飛行機でそこに落としたことに気づかれたのでしょうか。その疑問は、次の編集長の言葉で解明されました。

「実は、帰りの飛行機で他の資料を座席の脇に落としたんだよ。その時にわかったんだ。あ、あの資料もきっとそうだったんだなって」

 そう言って、なんだか得意そうに、さも嬉しそうに話す編集長。きっと、そのことがわかった時、思わず声を出してしまいそうになるくらい合点がいったのでしょう。本来ならすぐにでも言いたかったところを、見ず知らずの人に言うわけにはいかず、事務所に戻ってくるまで我慢していたのかもしれません。

 というわけで、編集長が持って行かれた資料は、今も機内のシートに眠っているかもしれません……。

(スタッフS)
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