東京駅の前に「KITTE」というビルがある。旧東京中央郵便局だ。その5階に「ピッツェリア エ トラットリア ダ・ボッチャーノ」というイタリアンレストランがある。

 オーナーが愛媛県出身で郷土の海の幸や山の幸をふんだんに使っている。その独特の味が気に入って、私も時々、利用させてもらっている。

 先日、この店で食事をした後、スタッフたちにお土産を買って帰った。愛媛のシラスを使った「松前産ヒゲにんにくと釜揚げしらすたっぷりのマリナーラ」というピザだ。

 シラスの塩味がピザの香ばしさを一層、引き出してくれる。店でも自慢の一品だ。

「皆、温かいうちに食べろよ」と言って、10分も経っただろうか。Sが私の書斎に駆け込んで来た。「編集長! すっごく美味しかったです! もう口の中でピザがとろけました。こんなに美味しいピザを食べたのは初めてです」。彼女の目は涙で潤んでいた。

 その30分後である。Iがおずおずと入ってきて、ポツリと言った。「いや、おいしかったです。あれで1680円なんですね」「1680円? それは知らなかったな。どこで調べたんだよ」「今、ネットで確認しました」

「美味しいなら美味しいでいいじゃないか。値段なんて、どうでもいいだろう」と私。「いや、僕は費用対効果を常に考えているんです」。サラッと言ってのけるIの唇に思わずタバスコを塗り付けてしまいたくなった夜だった。

(編集長N)
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