「誰か、財布見なかったか?」
 ある朝のことです。編集長が青い顔をして、スタッフルームに入ってきました。聞けば、編集長の財布が見当たらないのだそうです。

 もちろん、すぐにスタッフ全員で探し始めました。書斎、スタッフルーム、応接間、洗面所、キッチン、トイレ……。ゴミ箱の中まで探しましたが、なかなか見つかりません。

「どこかに置き忘れたということは?」
「タクシーの中で落としちゃったんでしょうかね?」
「いやいや、朝はあったから、それはない。必ず事務所にあるはずなんだけど……」

 全員で、あぁでもない、こうでもない、と言いながら、再び手分けして探し始めます。30分以上探しましたが、今回はどうしても見つかりません。半ば諦めのムードが漂い始めた頃……。

「ありました!」
 書斎からHさんの叫び声が聞こえてきました。
「どこにあったんですか!?」
「ここです!」
 Hさんが指差したのは……編集長。一同、不思議そうにしていると、Hさんが「編集長、失礼いたします」と言って、編集長の後ろに回り込みました。そして、ズボンのポケットからスッと黒い物体を取り出したのです。

「あ~っ!」
 そうです、編集長の財布だったのです。
「そうか、ズボンのポケットに入れていたのか! アハハハ」
「編集長、しっかりしてくださいよ(笑)」
 まるで新喜劇のような展開に、スタッフも大笑い。

 しかし、ほっとしたのも束の間でした。「良かったですね」「これで一件落着ですね」とスタッフルームに戻ろうとする私たちに、編集長から次のお題が……。
「ところで、携帯知らないか? さっきから見当たらないんだよ」

 編集長の首にぶら下がった携帯ストラップを見ながら、何も言えないスタッフたちなのでありました……。

(スタッフS)
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