先のドラフト会議、ガイナーズからは今季最多勝(13勝)の又吉克樹が中日からドラフト2位指名を受けました。報道もされているように、これは独立リーグ史上最高順位です。

 本人は高い順位での指名にビックリしていましたが、僕は「3位は確実。ひょっとしたら2位もあるかも」と思っていました。なぜなら、又吉には11球団から指名に向けた調査書が届いていたからです。

 こんなことはアイランドリーグでは初めて。しかも事前に数球団から「上位で指名する」という話も来ていました。争奪戦になっていただけに、中日も思い切って2位で指名してきたのでしょう。

 中日は担当の正岡真二スカウトはじめ、スカウト部長まで熱心に足を運んでいただきました。今回のドラフト会議には谷繁元信新監督、落合博満GMが参加しており、おそらく映像も見てもらっているでしょう。特に谷繁監督はキャッチャー兼任ですから、実際にボールを受けてもらってアピールができます。その点でもいいチームに指名してもらったのではないでしょうか。

 又吉の強みは何といってもサイドから繰り出す伸びのあるストレート。オープン戦でカープ2軍相手に好投し、NPBスカウトから注目される存在になりました。それでも、まさか、ここまでのピッチャーになるとは思いませんでしたね。特に前期は投げるたびに内容のあるピッチングをみせ、評価をどんどん上げていきました。

 彼はピッチャーを本格的に始めたのは大学に進学してから。大学の4年間にアイランドリーグの1年を加えて実質5年でNPB入りしたことを考えると、まだまだ伸びしろがあります。

 暑い夏場にはややバテて調子を落とした時期もありました。新しい変化球をマスターしようとして指先のマメをつぶす経験もしました。体はもちろん、メンタルもタフでないと1年を乗り切ることは難しいと身を持って感じたことでしょう。これらはNPBで長いシーズンを戦う上で役立つはずです。
 
 又吉は貪欲に高いレベルへ自らを成長させようとする姿勢は素晴らしいものがあります。その反面、やや完璧主義になりすぎ、自分で自分のピッチングを苦しくしてしまう欠点があります。

 ドラフト会議の後、谷繁監督とも電話で話をした際、この話になりました。谷繁監督によると、中日のピッチャー陣も、「完璧主義者で神経質なところがある」選手が多いそうです。
 
 もちろん、パーフェクトを目指すことは大事ですが、いざマウンドに上がったら、自分の持ち味を最大限に発揮することが第一です。又吉であれば、しっかり腕を振り、ストレートでバッターを圧倒する。この原点は忘れてほしくないと思います。
 
 今回、ワールドシリーズ制覇に貢献したボストン・レッドソックスの上原浩治は、常にテンポよくストライクをとっていきます。決してストレートは速くなく、球種が少なくてもクローザーが務まるのは、彼が自身の一番いいところをマウンド上で出しているからです。

 ピッチャーとしてのタイプは異なっていても、プロで成功する条件は共通しています。又吉も上原のように、大事な場面で良さを100%出せる選手になってほしいですね。


 久々にBクラスに沈んだ中日はチーム変革の時期に突入しています。自慢のピッチャー陣もベテランが多くなり、台頭してほしい若手はケガがちです。又吉にも1年目からチャンスが多く巡ってくることは間違いありません。

 春のキャンプ地が地元・沖縄なのも彼にとってはプラス材料でしょう。このオフ期間、いい準備をして、NPB選手として最高のスタートを切ってほしいと願っています。

 変則のサイドスローですから、個人的には中継ぎやセットアッパーで重宝されるとみています。ぜひ浅尾、岩瀬につなぐ前のところを任されるピッチャーになってもらいたいものです。

 中日へ独立リーグの選手が入団するのは初めてで、名古屋のメディアからは取材が殺到しました。又吉自身もテレビ局の出演で早速、名古屋に行っていました。これはアイランドリーグにとっても大きな宣伝であり、つかみはOKと言えるでしょう。

 来季が始まったら、今度はピッチングで多くのファンの心をつかめるよう頑張ってほしいですね。又吉は新生ドラゴンズの象徴――。そう言われる日が来ることを楽しみにしています。
 
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