先日まで行われていた東アジア競技大会(中国・天津)に出場するU-23香港代表にチームメイトが4人も選ばれた関係で、横浜FC香港は3週間、試合間隔が空くことになりました。その間を利用して12日には中国本土の深センに渡り、トレーニングマッチをしてきました。

 相手は中国2部リーグの深セン紅サン。日本でもおなじみ、フィリップ・トルシエが率いているクラブです。一昨年は元日本代表の巻誠一郎(東京ヴェルディ)が在籍し、今はジェフユナイテッド千葉にもいた楽山孝志がプレーしています。

 トルシエとは2010年にW杯のテレビ解説で一緒になって以来の再会です。相変わらず、元気そうで何よりでしたね。

 これまでのサッカー人生、たくさんの方に指導を受けましたが、トルシエは印象に残る監督のひとりです。まだ20歳そこそこの時期、シドニー五輪を目指す年代別代表に選ばれ、彼からサッカーに取り組む態度、戦う姿勢を植え付けられました。

 皆さんもご存知の通り、トルシエは自分の色に選手を染めていくタイプ。僕も厳しい言葉をぶつけられたことが何度もあります。シュート練習で何度も枠を外して叱られ、報道陣がいる前でひとり罰走を命じられたことも忘れられません。

 ただ、彼は決して怒りっぱなしではありませんでした。その日の夕食の席などでは、いつも優しい言葉でフォローしてくれるのです。指導方法も押しつけではなく、選手から率直な意見を求め、聞く耳は持っていました。

 当時の代表が中田ヒデ(英寿)をはじめ個性的なメンバーが揃っていました。それでもチームとしてまとまったのはトルシエがうまくコミュニケーションをとり、コントロールしていたからでしょう。

 彼は常に「日本の中で終わるな。海外でトライしろ」と高い目標を設定していました。僕が「世界へ挑戦したい」と具体的に考えるようになったのも、トルシエの影響が大きかったと思っています。

 そんなトルシエが率いる深セン紅サンは、1部のスーパーリーグ復帰を目指しています。ところがトレーニングマッチで、とんでもない光景に遭遇してしまいました。

 なんと、試合中に深セン紅サンの選手たちがケンカを始めてしまったのです。味方の中国人同士が試合そっちのけで殴り合い、血を流すほどでした。チームメイト同士のケンカはよくある話とはいえ、ここまで凄まじいのは初めてです。

 トルシエも「またか」という表情で止めにも入らず、チームメイトも観ているだけ……。楽山に聞いても、こういった状況が日常的に発生しているそうです。

 サッカーはチームスポーツ。いくらポテンシャルを秘めていても、味方と殴り合っていては、いい成績は残せません。先のアジアチャンピオンズリーグで広州恒大が柏レイソルに快勝して決勝進出を決めたように、中国のサッカーは急速な発展を遂げています。それだけにチーム内のまとまりがもっと出てくれば、強いクラブがたくさん生まれるのではないかと感じています。

 個人的には9月28日のイースタン戦でもヘディングで同点ゴールを決め、リーグ戦開幕から3試合連続得点中です。ただ、チームは2分1敗と勝てていません。

 繰り返しになりますが、サッカーはチームスポーツ。勝たないことには、せっかくのゴールも素直には喜べません。いくら得点をあげても、いいプレーをしても、それが勝利につながらない限り、本物ではないと言えます。

 19日には首位のキッチーをホームに迎えます。その次は昨季の覇者・サウスチャイナとの対戦が組まれており、チームにとっては正念場です。幸いヒザを痛めていた原田慎太郎も復帰予定で、万全の体制で試合に臨めます。それだけに何とか強豪に勝って、弾みをつけたいものです。
 
 開幕してからの3試合、横浜FC香港はすべて先制を許しています。先取点を与えないことは大事ですが、攻撃の選手としては先にゴールを奪いたいと考えています。

 ちなみに19日の試合は35歳で迎える最後の試合。先日はA-1ベーカリーというスポンサーを訪問した際、サプライズでケーキをいただきました。もうお祝いしてもらえるような年齢でもないのに、わざわざ僕のために用意してくださったことに感謝の気持ちでいっぱいです。単に資金を援助していただくだけでなく、チームを心から応援してもらっていることをとてもありがたく感じました。

 その一番の恩返しはピッチで結果を出すことです。いつも以上に気合を入れて、19日は精一杯頑張ります。皆さんも、ここでまた、いい報告ができるのを楽しみに待っていてください。

(この連載は今月より第3木曜更新になります)
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