幕を閉じた欧州各リーグの2014-2015年シーズン。日本人選手のなかでも充実した1年を過ごした者もいれば、厳しい1年を送った者もいる。

 今季の長友佑都は後者のほうだった。これまでは監督が代わろうともレギュラーの座を死守してきたが、インテル5年目は試練の連続だったと言える。

 昨年10月、左足ふくらはぎの肉離れから始まり、チームは上位に食い込めず、フロントは長友を評価していたワルテル・マッツァーリを11月に解任。ロベルト・マンチーニを呼び戻した新体制でも主力定着を目指してきた長友だが、アジアカップを終えた2月には右太腿裏の負傷で約2カ月の長期離脱に追い込まれてしまった。

 ケガから戻ってくると出番が与えられず、ベンチを温める試合が続いた。終盤の2試合は先発フル出場を果たしたとはいえ、消化不良のシーズンとなったのは否めない。チームも8位にとどまり、EL(欧州リーグ)出場権も取り逃がした。

 だが彼の新たなチャレンジが見えたシーズンでもあった。昨年のブラジルW杯でグループリーグ敗退に終わった悔しさをバネにしていこうとする姿勢。このままじゃいけない、との強い思いが表れていた。

 印象に残ったプレーがある。
 昨年11月23日、ACミランとのミラノダービー。0-1で迎えた後半途中、右サイドの浅い位置でパスを受け取った。いつもの長友なら縦に仕掛けていくかともと思われたが、ここは違った。

 トラップして、すぐさま中央にグラウンダーのパスを送り、相手のクリアミスも手伝って同点弾につなげている。対峙するディフェンダーがプレッシャーを掛けてくる前のタイミング、そして、どのクロスが効果的なのかという判断。縦に勝負ありきではない、彼の「引き出し」がゴールを呼んだと思えた。

 翌月、ミラノで彼にインタビューをする機会があった。体幹トレーニングについてのこだわりがテーマで、近年、体を「固める」から「緩める」に意識を変えてきているのだと彼は言った。

「鍛える部分は筋肉が収縮されているわけですから、そこは固まって当然。腹筋で言えば腹筋は固めていても、トレーニングに直接関係ない首や顔、背中までガチガチになっていないか。ほかの部分で脱力できたうえで、腹筋に刺激が入っているかどうかが重要なんです」

 この「緩める」効果が、ミラノダービーのシーンにつながっているように思えてならなかった。その感想をぶつけてみると、彼は頷いてからこう言った。

「体が柔らかくなって、頭のなかも柔らかくなっている感じはありますね。今までであれば勝負すると決めたら勝負しかないというところだったけど、相手や味方の状況を見ながら判断できるようになってきたのかな、と。ボールを受けてみて、そこから仕掛けるのか、クロスを上げるのか、それともパスをするのか、とセリエAの場でも柔軟にやれるようになってきている。これは柔らかさを身につけてきたからこそ、生まれてきた感覚だと思います。
 だけど、固めるという強さが要らないわけじゃない。その強さを持っていて、緩めるという柔らかさの幅を知っていると、試合中にいくらでも(プレーを)変えていけるんです」

 ケガが続き、出場機会に恵まれたとも言えず、“柔らかい長友”をさらに表現したくとも、できなかった今シーズン。ただ、プレーの幅を広げるチャレンジが己の進化につながっていくという確信は得ている。

 長友はイタリアから帰国後、予定を切り上げて早速、日本代表に合流している。消化不良気味に終わったシーズンの鬱憤を晴らそうと、気合が十分すぎるほど入っていることは窺える。

 ハリルジャパンは11日には親善試合のイラク戦、そして16日にはロシアW杯アジア地区2次予選がスタートし、シンガポールとホームで対戦する。

 長友が“剛”と“柔”の両面をいかに表現していくかが、見ものである。

(このコーナーは第1木曜日に更新します)
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