「目の前にある一戦、一戦をしっかり戦っていきたいんです」
昨季、終盤に失速してJ1優勝を取り逃がした浦和レッズは、Jリーグ記録となる開幕から17戦無敗(12勝5分け、継続中)で第1ステージを制した。
もう、あんなことはゴメン。
昨季のトラウマを払しょくするように、3バックの中央でプレーするDF那須大亮は眼前の試合に、ひとつひとつのプレーに集中を切らさなかった。昨季の悔しさと、あっさりグループステージ敗退に終わってしまったACL(アジアチャンピオンズリーグ)の悔しさを、リーグ戦にぶつけてきた結果が、ステージ優勝に結びついた。
背番号「4」、那須はどこまでもガムシャラだった。
相手に食らいつき、体を投げ出す。精いっぱい、力いっぱい。
決してスマートに食い止めるわけではないが、彼はゴール前で相手の前に立ちはだかった。ディフェンス陣は代表の槙野智章や西川周作に評価が集まるが、那須の貢献はとても大きかったと思う。泥臭いファイトが周りを鼓舞していた。
彼にとってタイトルは2012年シーズン、柏レイソル時代の天皇杯制覇以来となる。
あのときも彼のガムシャラが光っていた。
リーグ戦ではセンターバックの控えに回ることが多く、チーム事情からサイドバックで出場していた。しかし最終的にはここでも先発から外されるようになる。
気持ちのトーンが落ちかけていた。どうしてうまくいかないのか、悩める自分もいた。
だが、そんな状況に陥った際、彼は日々つけているサッカーノートに、こう記したそうである。
「悩みを忘れるぐらい走っているのか。
1対1で体を張っているのか。
ガムシャラにやっているのか。
一生懸命やっているのか」
自分の原点を書き連ね、己に問うてみた。
彼はハッと気づいた。
自分を出し切っていない、ガムシャラになっていない。
悩んでいる時間などもったいないと吹っ切れてからは、立場がどうあろうと練習から「全力」をテーマにした。その姿勢が再びネルシーニョ監督の目に留まり、彼は天皇杯でレギュラーとして優勝に大きく貢献したのだった。
彼は柏を1年で去り、浦和に移籍した。激しい生存競争に身を置いたことでレベルアップを図れた実感があったため、新たな競争のなかに飛び込んでいきたくなったからだ。レギュラーだろうが、サブだろうが全力を尽くす。そして浦和でもレギュラーの座をつかんでいくようになる。
2年前にインタビューした際、彼はこう語っていた。
「柏で得たものというのは、1試合の重みです。苦しんだ分だけ、その重みが今はわかる。もがいたからこそ得ることができました。浦和も競争は激しいけど、サポーターも熱いし、ここでやれる喜びを感じながら日々、取り組んでいくことができています。クラブの恩に報いるためには、勝っていくしかない。勝つためなら、僕はグラウンドですべてを出し切ってぶっ倒れてもいい。それなら本望ですよ」
1試合を集中して戦ってきた積み重ねが、この結果である。
しかしながら第1ステージ制覇は“途中経過”にしかすぎない。もちろん那須自身、気の緩みはまったくないようだ。
那須のガムシャラが、レッズ全体のガムシャラになってきた。
(このコーナーは第1木曜日に更新します)
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