アジアカップは、絶好のプロモーションの場である。
 いまやアジアの人だけが見る大会ではなくなった。移籍市場が1月いっぱいまで開いていることもあって、欧州クラブのスカウトや関係者が熱視線を向けている。欧州でもテレビ放映され、現地まで赴くクラブ関係者も少なくない。

 日本代表(代表経験者を含め)の多くが欧州でプレーするようになり、海外移籍が日常化している昨今。つい最近もセレッソ大阪から南野拓実のザルツブルク移籍が発表されたばかりだ。日本代表に対する海外の注目度は依然として高く、海外移籍を模索している柴崎岳、武藤嘉紀ら国内組の若手がアジア杯で活躍すれば今後、手を挙げるクラブが出てくるかもしれない。それにまた欧州でプレーしている選手が、別のクラブから声が掛かる可能性だってある。

 実際、アジア杯の活躍が認められて移籍したケースがある。
 4年前のドーハ大会。オーストラリアとの決勝戦、延長後半に李忠成の芸術的な決勝ボレーを導いたのが、左からドンピシャのクロスを送った長友佑都だった。

 長友は大会6試合すべてにフル出場し、最後までスピードとスタミナが衰えることはなかった。そして最後に見せた絶妙のクロス。当時セリエAのチェゼーナに所属していた彼のプレーに目を留めたのがほかでもない、インテルの監督を務めていた元鹿島アントラーズのレオナルドであった。

 移籍期限ギリギリの1月30日。
 長友の代理人を務めるロベルト佃のもとに、そのレオナルドから電話が入った。
「アジア杯で長友はいい活躍をした。絶対に悪いようにしないから、インテルに連れてきてくれ」
 インテルのマルコ・ブランカGMからも「長友が欲しい」と熱烈なラブコールを受けたという。アジア杯で見せた長友のパフォーマンスが、ビッグクラブを動かしたのだ。
 わずか2日でチェゼーナとの移籍交渉がまとまり、晴れて「インテル長友」が誕生した。アジアカップで活躍していなければ、この移籍話はなかったのかもしれない。

 今の日本代表は国内から海外移籍を狙う選手より、海外のクラブのなかでステップアップを目指す選手のほうが多い。清武弘嗣、酒井高徳らこれからの日本代表を背負うロンドン世代にとっても、アジア杯はチャンス。「第2の長友」が出てくる可能性は十分にあると言える。

 アジア杯を制することができれば、18年ロシアW杯の1年前に開催される17年コンフェデレーションズカップ出場権を獲得できる。このコンフェデ杯は言うまでもなくアジア杯以上に、プロモーションの機会となる。

 中村俊輔は2005年、ドイツで行なわれたコンフェデ杯の活躍によってレッジーナからセルティックへの移籍を実現させている。セルティックの監督だったゴードン・ストラカンはメキシコ代表のMFに関心を抱いて視察に訪れたのだが、対戦相手の「10番」にほれ込んでしまったわけだ。前年のアジア杯を優勝してコンフェデ杯出場権を手にしていなければ、中村のセルティック移籍は実現していなかった、とも言える。CSKAモスクワに所属していた本田圭佑も13年コンフェデ杯でのプレーが、ACミラン移籍を後押ししている。グループリーグ3連敗に終わったとはいえ、イタリア代表を苦しめたことが高い評価につながった。

 アジア杯で活躍すること、アジア杯を制することは、自身のキャリアにもかかわってくる。海外でプレーする選手が増えれば増えるほど、アジア杯やコンフェデ杯がこれまで以上に大切な“就活”の場となっていくのは間違いない。

 日本のため、チームのため、そして自分自身のためにも、アジア杯は優勝しなければならない大会なのである。

(2月からは第1木曜日に更新します)
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