ブラジルW杯イヤーとなる2014年が幕を開けた。

 本大会登録メンバーは23人。残り5カ月、その座を勝ち取るための競争がこれから本格化する。日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督は「手元のリストにあるのは63人。まだ誰一人として決まっていない」としている。63人が誰かは分からないが、多くの選手をチェックしているのは間違いない。同指揮官は「63人以外でもいい状態の選手がいればリストアップするようにスタッフには伝えてある」とも付け加えている。

 過去の例を見ても、23人のなかには「サプライズ」が付き物。06年のドイツW杯ではFW巻誠一郎(当時ジェフユナイテッド市原千葉)が招集され、前回の南アフリカW杯でも、代表から離れていたGK川口能活(ジュビロ磐田)が呼び戻された。今回も何かしらの“ドラマ”があるような気がしてならない。

 誰もが認める活躍をしていれば、招集経験がゼロであっても代表メンバーに滑り込む可能性は残されている。そんな期待を膨らませてくれる一人が、アルビレックス新潟のストライカー、FW川又堅碁ではないだろうか。

 プロ6年目の13年シーズンに大ブレイクした。12年、“武者修行”に出向いた期限付き移籍先のJ2・ファジアーノ岡山でリーグ2位の18得点をマーク。新潟に帰還した13年は先発2戦目となった5月3日の清水エスパルス戦でJ1初ゴールを挙げると、波に乗って一気にゴールを量産していく。終わってみれば、得点王に輝いたFW大久保嘉人(川崎フロンターレ)の26得点に次ぐ23得点をマーク。ザックジャパンに呼ばれているFW柿谷曜一朗(セレッソ大阪)、FW豊田陽平(サガン鳥栖)、FW大迫勇也(鹿島アントラーズ)、FW工藤壮人(柏レイソル)を上回った。

 闘志を前面に押し出すストライカーだ。
川又の特長はニアのクロスに対して相手との衝突にも怖れなく飛び込んでいくド迫力に、ゴール前のどんなボールにも食らいついていく獰猛さ。ゴールに対する執着心はFW岡崎慎司(マインツ)を彷彿とさせるものがある。ここ最近は華麗なストライカーが多くなってきているなかで、泥臭さをもつ川又の存在は異質と言えるかもしれない。丸刈りの頭も、気合いを映し出しているようだ。
 
 愛媛県西条市出身。小松高時代に愛媛FCの特別指定選手としてJデビューを果たしてはいるが、全国的には無名と言ってよかった。08年に新潟入りも、2年間で公式戦5試合に出場したのみ。初陣となったナビスコカップの試合では途中出場にもかかわらず、わずか11分で交代させられてしまうという不名誉なエピソードも持っている。

 10年に経験した半年間のブラジル留学では過酷な環境下に置かれ、生活するのも大変だった。しかしこういった不遇の時代が、川又の糧になってきた。
 昨年、彼にインタビューした際、このように言っていた。

「俺は常に下の立場から上を見てきたから、球際で勝ち切るとか、そういう土台みたいなものを自分のなかにずっと持ち続けてきました。メンタルでは絶対に負けたくないんですよ」
 先発に定着していく岡山時代には、ピッチに立つ喜びを味わうとともに、「責任」を強く感じたという。これが飛躍へのきっかけとなった。

「ファン、サポーターの人はわざわざお金を払って観に来ているわけやし、チームを勝たせたいと思って声も出してくれる。それにベンチを見たら、試合に出たくてたまらないのに出られない選手がいる。俺は、ずっとそちら側の立場やったから(気持ちは)分かるし、その分、試合に出ている自分らがやらなきゃダメやと思いました。そういうのも自分のパワーになりました」

 岡山でひと皮むけ、新潟に戻って開花を迎えた。
 しかしいくらゴールを奪おうとも、決して満足しないのが川又という男だ。
「点を獲らないと、飯が食えませんからね。3点獲ったからいいじゃなくて、もう1点獲れるなら絶対に獲りたい。いくら点を奪えているとはいっても、チャンスのときに決められないことも多い。だから悔しい気持ちのほうが実は強いんです」

 川又はA代表に呼ばれたことは一度もない。だが、昨年の活躍を見ても「63人枠」に入っていることは容易に想像できる。
2014年も“サプライズ”の活躍を見せられれば、“サプライズ”のブラジル行きも夢ではないのかもしれない。

(今月は特別編成で更新いたしました。2月からは第1木曜更新となります)
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