横浜F・マリノスか、サンフレッチェ広島か。

 J1は今週末、クライマックスを迎える。順位をおさらいしておくと1位が横浜FM(勝ち点62、得失点差+19)、2位・広島(同60、+20)、3位・鹿島アントラーズ(同59、+10)。最終節のカードは横浜FMがアウェーで川崎フロンターレと、広島はアウェーで鹿島との対決を迎える。優勝の可能性は鹿島まで残しているものの、得失点差が「9」離れているため、現実的には上位2チームに絞られそうだ。

 横浜FMが有利な状況に変わりはない。しかし横浜FMが引き分けて広島が勝った場合、勝ち点が63で並びながらも得失点差で広島が上回る。広島は最終節の勝利が優勝の絶対条件だ。

 前々節でセレッソ大阪に敗れた広島を優勝争いに踏みとどまらせたのがボランチの青山敏弘である。
 ホーム最終戦となった前節の湘南ベルマーレ戦。前半36分、味方がつないだボールを受けてドリブルで持ち上がると、相手を1人かわしてミドルシュートをゴール左隅に叩き込んだ。チームはこの青山の1点を守りきって、アルビレックス新潟に0-2で敗れた横浜FMとの勝ち点差を縮めたのだ。

 状況としてはよりプレッシャーが掛かっているのは横浜FMのほうか。筆者は日産スタジアムで横浜FMの試合を見てきたが、全体的に動きが硬かった。リーグ戦で今季は2点差をつけられての負けがなかっただけに、少なくとも精神的なショックがあったはずだ。

 それに比べると優勝をあきらめてもおかしくない状況だった広島はリラックスした状態で鹿島に乗り込めるというもの。数字上では横浜FM有利に変わりはないが、流れを加味すれば優勝の可能性は両者五分五分と言えるのかもしれない。

 横浜FMのキーマンはやはり中村俊輔だが、広島で1人を挙げるとすれば湘南戦で決勝ゴールを決めた青山ではあるまいか。11月10日の柏レイソル戦でもゴールを決めていて、調子の良さが目立っている。

 青山と言えば、ザックジャパンに招集された7月の東アジアカップの活躍を思い出す。
 韓国との最終戦。低い位置でボールを持つとすぐさまロングフィードで前線に送り、抜け出した柿谷曜一朗(C大阪)が先制ゴールを奪った。広島のエース、佐藤寿人の動き出しをイメージするかのようなパス。視野の広さ、パスを出す判断の良さとセンスはザックジャパンに新しい風を吹き込んだ。

 これまでは度重なるケガに苦しんできたものの、1年フルで働いて優勝に貢献した昨シーズンの自信が、成長を生んでいるように思う。
 以前、彼にインタビューした際、このように言っていた。

「昨シーズンは力を抜いて自然体でサッカーをやれた感覚でした。頑張るというのが自分の売りなんですけど、森保監督から『これ以上、頑張ろうとかみんなの思いを背負ってガチガチにプレーしなくていいから』と言われて、自分でその部分を少し緩めてみたんです。頑張り度をちょっとだけ下げてみることにして、そうしたら自然体のこういうスタイルが自分なんだと初めて分かった。

 でも何も苦しまずに掴んだ感覚じゃなくて、いろんな挫折があって自分と真正面から向き合ってきて、やっと掴んだものだという感覚。ネガティブな経験は決して無駄じゃなかったと思っています。ケガがあったから、強くもなれました」

 そう、今の青山にはいい意味で余裕を感じる。だからこそより視野が広く、よりいい判断ができている。

 ザックジャパンのボランチでは山口螢(C大阪)が台頭しているが、青山が好調を持続していければ、お呼びが掛かる可能性は十分にあるだろう。最終節の鹿島戦でより強いインパクトを残すことができれば、世間からそういう声も上がってくるに違いない。

 運命の最終節。

 青山の存在が、実に不気味に思えてならない。

(このコーナーは第1木曜日に更新します)
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