ガンバ大阪のJ1昇格が決まった。
 11月3日、ホームでの第39節ロアッソ熊本戦に4-0で大勝。その後に行なわれた首位ヴィッセル神戸と3位京都サンガの一戦が引き分けたため、首位に浮上して2位以上を確定させ、1年での“復帰”となった。

 シーズン序盤は対戦相手に引いて守りを固められて勝ち星を重ねられず、終盤は2連敗を喫するなど足踏みもあった。決して簡単ではなかったJ2でのタフな戦いを経て、新生ガンバはより逞しくなったと言える。第39節終了時点でチームの得点数は断トツの93(2位は神戸の73)。昨季のトップが湘南ベルマーレ(現J1)の66得点であることを考えても、桁違いの爆発力だ。
 その「攻撃サッカー」を指揮したのが言うまでもなく遠藤保仁である。熊本戦ではフォワードとして出場して先制ゴールを挙げ、昇格に花を添えた。

 遠藤にとっては、チャレンジの1年だった。
 プロ16年目にして初めて経験するJ2の舞台。環境面の違いではバス移動が多くなり、観客数や注目度も違ってくる。

 そして当然ながらリーグのレベルも下がる。代表は英プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドに所属する香川真司をはじめ、欧州でプレーする選手が大半を占める。他のメンバーが高いレベルの環境に身を置こうとする一方で、逆にステージを一段階落としてしまえばプレーに影響が出ないとも言い切れない。代表の中核を担う立場からすれば、リスクもあった。

 しかし、ベテランは乗り切った。若返りを図ろうとするチームのなかでしっかりと存在感を発揮し、代表でもコンスタントに出場を続けた。

 10月の欧州遠征後にインタビューをする機会があった。
昇格を目の前にして、今だから打ち明けられる苦労話を聞きだそうと思ったのだが「いや、逆に環境の違いを楽しんだりしていますよ」とサラリとかわされてしまった。そして彼は言葉を付け足した。

「試合とか環境などはこれも経験のうちだと思えば、別に悪いってわけじゃないですから」と――。

 与えられた環境のもと、どう自分のプレーを、自分自身を磨いていくか。
環境の変化など遠藤からしてみれば、さほど関係なかったのもしれない。要は自分の意識次第でどうにでもなる、ということだ。

「個人のレベルはもちろんJ1のほうが高いし、J2は単純なミスも多いですよ。それに慣れたらダメだし、判断のスピードを落としてしまうこともしてはいけない。でもこういうのは、意識の問題じゃないかな、と。

 試合はACLもないし、ナビスコカップもないからほぼ週1ペース。要は練習時間のほうがはるかに長いから、自分の時間が凄く増えるわけです。その時間をいかに大切に過ごすか。今までJ1の日程ではやれなかったことを、僕はやろうと思いました」

 その取り組みのひとつが下半身の強化だった。筋トレを精力的にこなし、よりスピードと耐久力をつけ、バランスも一から見直した。その成果は「試合の中でうまく対応できている場面がちょくちょく出てくるようになった」と実感を持てるまでになっている。

 判断のスピードを落とさないためには、ガンバ自体のレベルを引き下げないことが重要だった。チームのレベルがJ1でも優勝争いできるぐらいであれば、濃密な練習を日々こなしていくだけで磨きをかけられる。遠藤は若い選手の台頭を歓迎しながら、キャプテンとして彼らに厳しい目も向けていた。

「(レギュラーの)11人以外だろうが、どこのチームに行ってもレギュラーを獲れるというレベルになっていければ、チームとしてもっといい練習ができると思うんです。

 若い選手と一緒にやると『こいつらには負けらんねえな』といい意味で自分の刺激にもなっていますよ。どんどんいい選手が出てくると、チームも底上げできる。(彼らが)試合に出て経験を得ることは貴重だし、若い力がチームの力になってきているなとは思っています」

 初めてキャプテンマークを巻いて戦ったJ2での1年間は、遠藤の肥やしになった。
「J2を経験して自分が成長できているかは分かりません。でも自分にとっていい経験になっていることは間違いないです」

 経験値をまた1つ上げて、遠藤保仁が再びJ1の舞台に帰ってくる。

(このコーナーは第1木曜に更新します)
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