セリエAのインテルで4シーズン目を迎えた長友佑都が、開幕からいいスタートを切っている。

 開幕戦のジェノア戦(アウェー)で、ヘディングで先制ゴールを奪ってチームの勝利に貢献。すると、第2節のカターニア戦(ホーム)でも右サイドからのクロスに飛び込んでいき、ヘディングで2戦連続のゴールを奪った。日本人選手の開幕2試合連続ゴールはセリエA史上初だという。
 
 何故、ゴールを奪えているのか。
 長友のゴールは決して偶然などではない。今季インテルの指揮官に就任したワルテル・マッツァーリ監督が長友に対して、積極的な攻撃参加を要求しているためだ。ジェノア戦、カターニア戦ともに、前線に顔を出す意識がゴールにつながったと言える。

 3バックを戦術のベースにしているマッツァーリ体制で、長友は基本的に左のウイングバックが定位置となる。しかし、一般的なウイングバックではない。本職の守備をおろそかにしているわけではないが、印象としてはとにかく攻撃重視なのだ。マッツァーリ体制になって長友は迷いなく前に行く回数が増えている。チャンスと見るや、前線に入っていってシュートを打つ。現在のインテルのスタイルは、左右のウイングバックが攻撃のカギを握っている。

 マッツァーリのもとで長友は水を得た魚のように躍動している。代表から戻った直後の第3節ユベントス戦(ホーム)でも、長友はゴールを積極的に狙った。右CKをボレーで合わせたり、ミドルシュートを放ったりと、攻撃的な姿勢がこの日も目立った。チームの連勝は2でストップしたものの、昨年のリーグ覇者相手に、収穫ある引き分けだと言えるだろう。
 
 昨季9位のインテルは大型補強をしたわけではない。戦力的に見れば今季も苦戦が予想される中で、ナポリで旋風を起こし、昨季2位まで引き上げたマッツァーリがどうチームを変えるか。その手腕に注目が集まっていた。開幕3試合を見る限り、インテリスタが見る希望の光は大きくなっているのではあるまいか。

 このマッツァーリという監督、実は日本のサッカーファンにはおなじみの監督である。
 ナポリを指揮してチームを躍進させる以前、彼はレッジーナを率いている。2004―05年シーズンから指揮し、そのときのチームにはセリエAで3シーズン目の中村俊輔がいた。

 セリエB上がりの無名監督は、それまで中盤を省略したロングボール主体のサッカーだったチームを、中村を中心にした「つなぐ」スタイルに切り替えた。その結果、ユベントス、ローマを破る大金星を挙げ、レッジーナを過去最高の10位に導いたのだ。

 マッツァーリは中村にとっても影響を受けた監督の一人だった。彼から「今までに見たことのないタイプの監督だった」と聞いたことがある。

「イタリアのサッカーというのは、選手の自己主張が強くて、フォワードなんかはミニゲームでケンカして帰ってしまうことも少なくない。イタリアではそういった選手を外して自分の権限を示すタイプの監督か、逆に自分の足元に置いてうまく使おうとする監督の大体どちらかしかいない。だけどマッツァーリはどちらにも当てはまらない感じがした。野放しだったね(笑)。選手との距離を思い切り近づけたり、遠ざけたりというのがなかった」

 しかし、コミュニケーションを取らないわけではない。むしろ良く取っている。ただ周りの目を考えながら、デリケートに事を進めていく手法だ。

 中村も練習前後、監督室に何度も呼ばれたことがあるという。

「『ナカはこうやってプレーしたけど、こうやってみたらどうだ』とか『こうやると動きづらいか』などと聞いてくれる。強要はしなくて、選手の個性を大事にしようとする監督。周りがどうだったかは知らないけど、俺の見えないところで他の選手たちも呼ばれていたとは思うよ。

 だけどマッツァーリが凄いのは、練習になると選手の前で顔色ひとつ変えない。ベンチでずっと紙とかを見ていて、練習はコーチにやらせているから。監督の威厳というものを、意識していたのかもしれない」

 個人それぞれにタスクを与え、チームにピリッと緊張感を持たせる。戦術家でもあるが、選手を自分に向かせる、チームを一つにさせる操縦術こそがマッツァーリの最大の特徴なのかもしれない。

 長友のマッツァーリの意図を汲み取ってプレーしようという姿勢が際立つのは、お互いにいいコミュニケーションが取れているということだろう。優れた指揮官との出会いは、きっと成長を加速させる。

 つくづく思う。長友は「持っている男」だと。
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