2013年の日本サッカー界において、ブレイクしそうな若手選手で特に期待しているのが、セレッソ大阪のMF柿谷曜一朗である。3日には23歳の誕生日を迎えた。

09年より期限付き移籍していたJ2の徳島ヴォルティスからC大阪に復帰を果たした昨年は途中からレギュラーの座を勝ち取り、自己最多となる11得点をマーク。チームは残留争いに巻き込まれてしまったが、柿谷にとっては飛躍の一年となった。

柿谷は早くから将来を嘱望されてきた。07年に行なわれたU-17W杯では2ゴールを挙げる活躍。「日本に柿谷あり」とまで言わしめる天才ぶりを発揮した。
ところが、そこから伸び悩んだ。09年には練習に遅刻したことで当時のレヴィー・クルピ監督の怒りを買い、徳島に放り出されてしまうのだ。

才能を持っていても、危機意識がなく、沈んでいった選手は山ほどいる。柿谷にもそんな冷やかな視線が送られていたように思う。それでも、彼は這い上がってきた。徳島で気持ちの甘さを捨ててプレーするようになり、チームを引っ張る存在に成長した。高い技術に、たくましい精神力が備わるようになった。

一度、地獄を経験した男は強い。
C大阪に戻ってプレーする彼に変化を感じたのは、勝負強さと泥臭さだ。象徴的なシーンとなったのが、清武弘嗣(現ニュルンベルク)のC大阪でのラストマッチとなった6月30日の浦和レッズ戦(アウェー)だった。後半ロスタイム、キム・ボギョン(現カーディフ)が放ったミドルシュートのこぼれ球を全速力で拾いにいき、絶妙のトラップから左足で同点ゴールを決めたのだ。絶対に決めてやる、という意思が観ているほうにも伝わってきたゴールシーンだった。

以前、柿谷にこの場面について聞いたことがあった。
「あのゴールのとき、自分は後ろのほうにおったんですよ。ボギョンがシュートを打ちそうやったし、下がスリッピーやったから詰めとこう、と。前にいたケンペスが触るとオフサイドなんで、もう“どけー”ってデカい声で(笑)。キヨ(清武)の最後の試合で負けるのはどうしても嫌やった。

今シーズン(2012年)はこぼれ球を狙っているシーンが自分で振り返ってみても多いかなと感じてます。そこは今までの自分に欠けていた部分やったかもしれませんね」

 ゴールに対する執着――。「結果を追求しないとゲームには使ってもらえへんやろうし、チームからの信頼もなくなりますから」と彼は力強く言った。いつレギュラーから外されてもおかしくないという危機意識が、ゴールへの飢えを生んでいたのだ。

 運命とは不思議なものだ。8月25日の横浜F・マリノス戦後、C大阪は指揮官交代を発表。柿谷を“追放”し、11年限りで退任したクルピ監督が戻ってきたのである。柿谷は一度、失った信頼を取り戻そうと、ひたむきに結果だけにこだわってきた。クルピ監督の就任以降、チームが5試合のうち4勝するなか、柿谷は4ゴールを奪っている。

 彼は言う。
「(監督と再会したときは)恥ずかしい感じでしたね。以前は自分のとがった部分しか見せられていませんでしたから。レヴィーからはゴールすることの大事さを深く学んだし、“もう何も言わんでもアイツなら点を獲る”と思われれば、それが一番の恩返しなんじゃないかと思う。

でも、10点以上獲ったからって多分、レヴィーは何にも思ってないはずですよ。“それぐらい獲れるやろ”と思ってくれてるはずやし。だから俺もそれぐらいにしか受け止めてない。自分なんか、まだまだやと思いますよ」

 柿谷はロンドン五輪世代。彼は本来ならロンドンのピッチに立ち、日本を引っ張らなければならない存在だった。だが、大舞台には立てなかったものの、廻り道をしてきたことで得がたいものを手にした印象がある。C大阪出身の清武や香川真司(マンU)らに遅れはとっているが、これからでも十分に巻き返しは可能だろう。今季の活躍次第ではザックジャパンに選ばれる可能性も十分にあると思う。

 2013年、“天才”柿谷の真の開花に期待したい。

(このコーナーは第1、第3木曜日に更新します)


◎バックナンバーはこちらから