「ライガーは、うまいことやりやがったな」
 テレビ朝日系列で放送している『大改造!!劇的ビフォーアフター』が、新日本プロレス寮のリフォームを特集したのを観て、山崎一夫さんは、こんな感想を口にした。

 山崎さんは、新日本プロレスでの獣神サンダー・ライガー選手の先輩にあたり、現在、プロレス中継の解説を行なっている。この放送を観た者なら山崎さんでなくとも羨ましく思ったことだろう。

 新日本プロレス寮は、元々アントニオ猪木さんの自宅だった場所に、道場や2階を増築したのだが、40年以上が経ち、かなり老朽化していた。そこで、テレビ番組が密着して、寮を大改造したのである。僕も現役の頃だけでなく、プロレス学校(プロレス道場)のコーチとしても、長い間お世話になった想い出の場所であり、放送はしっかりとチェックした。

 今回、リフォームを依頼したのは、ライガーさん。番組の主役であった。まず、ベテランのライガーさんが、寮に住んでいること自体、多くの視聴者は驚いたのではないだろうか?

 普通、寮は練習生など若手のみが活用し、一人前になると巣立っていくものだ。それが、キャリア約30年のライガーさんがいるのだから不思議に感じるのも無理はない。ライガーさんは、福岡在住のため、単身赴任のような形で寮を使っているのである。

 もちろん、お金に困っているから寮にいるわけではない。道場があり、いつでも練習できる場所だからこそ、寮費を払ってまでも住んでいるのである。ライガーさんは、とにかく練習の虫なのだ。

 11年前に1度、総合格闘技の試合に出たことがある。パンクラスのリングで、新日本プロレス時代のかつての後輩である鈴木みのる選手と対戦したのだが、健闘虚しく敗れてしまった。よほど悔しかったのか、それ以来、ずっと柔術の道場にも通い続けているのだ。

 プロレス界のレジェンドが、町道場で、一般の会員に交じって、練習などなかなかできることではない。それも感情的に一時期ではなく、現在も継続しているのだから頭が下がる。

 もちろん、新日道場の練習だって欠かさない。巡業で疲れていても、目の前が道場だから、つい練習をやってしまうのだろう。ライガーさんは、レスラーとして最高の環境を自らで選んだのである。

 年間160試合を行ない、長い巡業のあるレスラーには、オンとオフを分けたがる選手もいる。だが、ライガーさんだけは365日、プロレスラーでいるのだ。おそらく、170センチに満たない小さな体だからこそ、そこまで努力するのかもしれない。身長のハンディをまさに努力で克服した人なのだ。

 そんなライガーさんでも息抜きはある。以前このコラムで、食虫植物が趣味と書いたことがあるが、それだけではなかった。なんとゴジラなど怪獣の造型もプロが真っ青な程の腕前なのである。

 陶芸と同じように怪獣づくりに没頭している間が、心を無にできる良い時間なのだろう。僕も作品を見せてもらったことがあるが、手先の器用さに舌を巻いた。ライガーさんは、本当に才能の塊だと思う。

 番組では、その腕を見込まれ、なんと寮のドアにライガーさんが型をつくったライオンマークが飾られることになった。新日本の象徴である大事なライオンマークを手がけるのだから、さすがのライガーさんでも緊張したに違いない。

 完成したものがオンエアされていたが、その出来栄えは素晴らしかった。番組を観た知人も賞賛の嵐だったが、作品もさることながら、ライガーさんのその明るいキャラクターが注目を集めていた。
「ライガー、ホント最高だね」
 プロレスを知らない友人も興奮しっぱなしだった。

 マスクマンながら、喜怒哀楽がはっきりと伝わり、人間味のあるところがウケたのかもしれない。画面からも人柄の良さが、しっかりと伝わっていた。

 僕の引退パーティーの際、ライガーさんは終始、ミヤマ☆仮面のTシャツを売ってくれていた。食事も摂らずに一生懸命、僕のために頑張ってくれたことを後で知り、本当に恐縮したのを今でも覚えている。たとえカメラが回っていなくても、人が見ていなくても、変わらぬ熱い心を持っているのだ。

 さて、肝心のリフォームだが、歴史の詰まった古い寮は、まるでリゾートホテルのように生まれ変わっていた。お風呂にはジャグジーを取り付け、狭かった脱衣所は格段に広くなり、食堂はオシャレなカフェのようだった。スーツケースでゴチャゴチャしていた居間は、癒しの空間へと変貌を遂げていた。

 リフォームの匠の技と、ライガーさんの存在感で、インパクトは十分。間違いなく今後、新日本の入門者が増えるであろう。
「もう1回、練習生から新日本でやり直そうかな」
 これが僕の偽らざる本音である。

(毎月10、25日に更新します)
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