関塚ジャパンは1日のグループリーグ最終戦でホンジュラスに0-0で引き分け、グループ1位で決勝トーナメントに進んだ。スペインを下して世界に衝撃を与え、攻守に一体感のあるサッカーでブックメーカーのオッズをグングンと引き上げている。金メダルを期待されるW杯王者のなでしこジャパンばかりに注目が集まっていたが、本番に入って“男の意地”を見せている。



彼らの快進撃に一役買った男がいた。本大会のメンバーに選ばれなかった左サイドバックの比嘉祐介(横浜FM)である。

あるスポーツ紙にこんな裏話が紹介されていた。



「比嘉は関塚ジャパンのメンバーやスタッフの口癖などを自ら真似たりしたDVDをわざわざ作製し、それをマリノスのチームメイトである斎藤学に手渡したのだという。その“お笑いDVD”を本大会前の合宿中に全員が見て、みんながあらためて気持ちをひとつにした」と――。



この記事を読んで、実に彼らしいなと思った。



比嘉は2010年のアジア大会優勝に貢献し、それ以降もレギュラーとして起用されてきた。しかしマリノスではレギュラーを奪えず、U-23代表でも選考前のトゥーロン国際大会で結果を残せなかった。酒井高徳(シュツットガルト)の評価が高まっていたこともあって、比嘉の落選は言わば自然の流れだと言えた。



ただ、彼は誰もが認める関塚ジャパンのムードメーカー。チームに新しい選手が入ってきたら、関塚隆監督から2人部屋の相棒に必ず指名されていた。筆者が比嘉にそれを尋ねたとき「多分、俺だと選手が気を遣わなくていいからじゃないですか」と笑い飛ばしたが、比嘉はそれなりに意気に感じていたのだと思う。関塚監督としては比嘉の貢献を十分に分かっていただけにトゥーロンでもチャンスを与えたのだろう。



自分がこのチームを盛り上げていこう――。

そんな気持ちをずっと持ち続けてきたからこそ、比嘉は落選した悔しさよりも“どういうことをして盛り上げてやろうか”という思いを抱いた。ムードメーカーからの粋な贈り物は、五輪の結果を見る限り、予想以上の効果があったのではないだろうか。



チームへの帰属意識――。

これは日本の大きな強みなのかもしれない。例えばジーコは「ファミリー」という言葉を用いてチームに愛着を持たせた。岡田武史前監督も6つ用意したチームフィロソフィーのひとつに「OUR TEAM」(我々のチームという意識)を入れて、帰属意識を強調させている。



現在のA代表アルベルト・ザッケローニ監督は選手の選考基準に「チームの輪を乱さないこと」を公言するなど、代表に対する誇り、そしてチームに対するリスペクトを重んじている。昨年1月のアジアカップで優勝を果たした際、ザッケローニは出場機会のなかった権田修一(FC東京)、森脇良太(サンフレッチェ広島)の名前をわざわざ挙げてチームへの貢献を口にするなど、日本人プレーヤーの帰属意識の高さを評価していた。



日本が今までやってきたチームづくりの効果は、若い選手たちのなかにも知識としてあったはずである。チームのために自分は何ができるのか――。比嘉ばかりでなく、そういったことを自然と考えられるような選手が多くなってきているように思えてならない。



これは当然なでしこジャパンにも言えること。男子のように環境にも恵まれてこなかった背景もある。女子サッカーを盛り上げていきたいという思いを全員で共有できているからこそ、一体感が強いのだろう。



もともと比嘉は明るいキャラクターの持ち主だが、落選した選手がこうやって外からチームを盛り上げるといった話はあまり聞いたことがない。ワイルドな外見は大津祐樹(ボルシアMG)よりもよっぽど「チャラ男」に見えるのだが、なかなか出来ることではあるまい。



関塚ジャパンは準々決勝でエジプトと対戦する。ここを乗り切れば、メキシコ五輪以来となるメダル獲得のチャンスが訪れる。比嘉たちメンバーに残れなかった者の思いも乗せて、全力をぶつけて戦ってほしいものである。



(この連載は毎月第1、3木曜更新です


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