◇3月13日 正田醤油スタジアム群馬 4,812人
 ザスパ草津 0−1 愛媛FC
【得点】
[愛媛] 福田健二(24分)
 約6年3カ月ぶりの国内でのプレー時間は76分間。その間に放ったシュートはわずかにPKの1本だけ。しかし、それでクラブを勝利に導くのがストライカーの仕事だ。福田健二の存在を示すには、充分すぎる愛媛デビュー戦だった。

 見せ場が訪れたのは前半24分。右サイドからMF赤井秀一が左へ大きく展開したボールをDF松下幸平が受け、PA内に切り込む。相手DFはたまらず、松下を倒してしまい、愛媛がPKを得た。キッカーはもちろん福田だ。「緊張はしなかった」。落ち着いてボールをセットすると、GKの動きをよく見て、右足を振りぬく。柔らかなボールがゴールマウスを揺らし、福田と愛媛に今季初ゴールが生まれた。福田にとってはFC東京時代の2002年11月24日、浦和レッズ戦で延長Vゴールを決めて以来、2666日ぶりの日本での得点でもあった。

 前所属先とのトラブルで選手登録が完了せず、開幕戦は欠場を余儀なくされた。特例でJリーグの登録が認められたのは前日の午前中。急遽、遠征メンバーに加わり、福田曰く「ほぼぶっつけ本番」で草津に乗り込んだ。

 しかし、キャンプから取り組んできた福田を中心とする愛媛のスタイルは充分にみえた。福田がワントップを張り、左右にスピードのあるMF杉浦恭平、FW石井謙吾を従えた4−3−3の布陣は、立ち上がりからバルバリッチ監督が目指す「分厚い攻撃」を展開する。若い2人が空いたスペースに走りこめば、ゴール前では福田がくさびとなり、ボールをキープ。そこへ後列の選手が飛び出す。攻め手に欠いた前節の開幕戦とは打って変わり、10人のフィールドプレーヤーは機能的にピッチ上を駆け回った。

「巧みなポストプレーでうまくやられてしまった」
 敗れた敵将の副島博志監督は、試合後、そう福田を評し、唇をかんだ。小学5年生からの同級生でもある草津のMF廣山望も「すごく効いていた。起点をつくられた。プレッシャーもある中、点を獲るところが福田らしいなと思いましたね」と脱帽といった表情だった。存在感の大きさを改めて実感したのは味方の選手も同様だ。サイドバックの関根永悟は「健二さんが前からプレスしてくれて、すごく守りやすかった」と明かす。

 ただ、愛媛ペースで試合ができたのは前半の30分まで。サイドからの押し上げが弱まると、草津の逆襲を受ける時間帯が続いた。春の陽気に気温も18℃と上昇する中、福田も後半30分には足がつり、そのまま途中交代。それでも32歳のキャプテンが前で体を張り続けた姿勢に好影響を受けたのか、残された選手たちは集中を最後まで切らさなかった。
「(ペースが)落ちた場面もあったが、選手たちがみんな我慢して頑張ってくれた」
 バルバリッチ監督も賞賛する内容で、愛媛は虎の子の1点を死守した。

 勝利の瞬間、ベンチで戦況を見守っていた福田は拳を高くあげ、喜びを表現。バルバリッチ監督とハイタッチをして笑顔で抱き合った。そしてピッチ中央に全員を集めると円陣を組ませた。「勝った時には全員で喜びを分かち合いたい」とのキャプテンならではのアイデアだった。初めてのことで他の選手はとまどっていたようだが、本人は「定番になればいいですね」とニヤリと笑った。

「彼の価値は非常に大きい。グラウンドの中でいいところを見せてくれた。それに試合に対する臨み方でもいい影響を与えている」
 個人の評価をしたがらない指揮官も経験豊富なストライカーには絶大な信頼感を口にした。次節はホームでの水戸ホーリーホック戦(21日)。今後は前半でみせた攻撃を長く続けていくことが課題になる。

「みんな、僕のことを信頼してくれているし、僕もみんなのことを信頼している」
 クラブの雰囲気は今までになく明るい。これも福田効果だろう。「チームがひとつになって戦うことが大事」と語るクラブの顔が加わり、愛媛FCの2010シーズンがようやく動き始めた。

<両チームメンバー>
愛媛FC
GK 21 山本浩正
DF 13 関根永悟
    5 アライール
   22 小原章吾
   15 松下幸平 
MF  6 田森大己 
   16 赤井秀一
   19 越智亮介 → 7 持留新作(88分) 
   23 杉浦恭平 → 4 渡邊一仁(68分)
FW 11 石井謙伍
   24 福田健二 → 9 ジョジマール(76分)

ザスパ草津
GK 21 常澤聡
DF  7 佐田聡太郎
   20 柴田慎吾
    2 戸田和幸
   16 佐藤将也
MF 10 廣山望 → 25 山田晃平(HT) 
   30 松下裕樹
    6 櫻田和樹 
   14 熊林親吾 → 23 菊池大介(83分)
FW 19 後藤涼 → 8 ラフィーニャ(HT)
    9 高田保則

(石田洋之)