山口素弘「W杯優勝はスペインかブラジルか」
6月に入り、サッカーW杯開幕がいよいよ目前に迫ってきた。日本代表はグループリーグを突破できるのか、8カ国目の新たな優勝国が生まれるのか、世界を驚かすスターが登場するのか……興味はつきない。このほど、1998年フランスW杯で日本代表のボランチとして活躍した山口素弘さんと当HP編集長・二宮清純が雑誌『第三文明』にて対談を行った。その中から山口さんの今大会の予想を中心に一部を紹介したい。二宮: 今大会の優勝候補はズバリどこですか。
山口: やっぱりスペインは間違いなく候補のひとつでしょう。ある意味、個人的にも勝ってほしいチームですね。スペインのサッカーは観ていておもしろい。やっている選手もおもしろいだろうと思います。
ただ、いつも優勝候補に挙がってくるブラジルも今回は侮れない。日本でもプレーした監督のドゥンガが、これまでとは大きく異なるチームに仕上げてきました。特に前回大会も「最強」と言われながら、準々決勝で無様な負け方をしてしまいましたからね。その反省は充分に踏まえているでしょう。
二宮: 今回のセレソンは個人技に頼るのではなく、組織的な守備を重視したメンバー選考になっています。
山口: 正直、あんなチームづくりをブラジルにやられたら、困るなという気持ちですね(笑)。ちょっとスキがない感じがします。最近は個々の能力を尊重すると言われていた南米でも、たとえばチリやコロンビアは、タレントが出なくなってきたせいもあって、すごく組織的な戦い方に転換している。日本がやっていることと同様のことをやられると厳しいですよね。
二宮: ジュビロに所属していたドゥンガとは、何度も対戦しましたよね。やはり相当、相手としては厄介だったでしょう?
山口: 対戦相手としてはもちろんですが、よくジュビロの選手からも「大変だ」という話を聞きました。ピッチ内では監督のような存在でしたからね(笑)。言っていたことは、本当にシンプル。止める、蹴るといった基本にうるさかったようですね。
当時、ブラジル代表が遠征に来た際に、その前の韓国戦で非常に彼らの内容が良くなかったことがありました。これはチャンスだと思っていたら、日本での試合はガラッと良くなった。シンプルにボールを動かされて、コテンパンにやられました。結果は1−5の大敗。後で聞いたらドゥンガがロナウドら若手に「オマエら、勝手にやりすぎだ。サッカーはそんなに甘いものじゃない」と説教したらしいんです。
二宮: 94年のアメリカW杯で優勝した時のドゥンガとマウロ・シルバのダブルボランチはとても印象的でした。
山口: 本当にあのコンビはすごかったですね。マウロ・シルバがセンターバックの間に入る動きも参考になりましたし、ドゥンガのシンプルなプレーも勉強になりました。ドゥンガが日本に来た時は、もうスピードはなかったですけど、やはりポジショニングやゲームの流れを読む力は、対戦していてもずば抜けていましたね。
二宮: 振り返ってみたらドゥンガに、フリューゲルスで山口さんのチームメイトだったサンパイオやジーニョ、鹿島のレオナルドやジョルジーニョとブラジル代表が日本でたくさんプレーしていましたからすごかったですね。
山口: 本当にそうですよね。ブラジル以外でも、今、名古屋の監督をやっているピクシー(ドラガン・ストイコビッチ)、ギド・ブッフバルト(浦和)にピエール・リトバルスキー(市原)と世界のいい選手がたくさんいました。
二宮: 彼らのおかげで日本サッカーのレベルは格段にレベルアップしました。山口: でも、Jリーグが彼らのプラスになった部分もあるんですよ。たとえばサンパイオはブラジルにいたときは代表の主力ではなかったのですが、フリューゲルスに来てから98年のW杯ではドゥンガとボランチのコンビを組みました。本人は「日本でのプレーはとても勉強になった」と言っていましたよ。
というのも僕ら日本人は、どうしてもセットプレーで外国人を頼りにするんですね。ヘディングも強いだろうと。でもサンパイオはヘディングが決して得意ではなかった。それでも対人の強さを発揮してほしいのでセットプレーのターゲットにしていたら、フランス大会の初戦(対スコットランド)で彼がコーナーキックから見事なヘディングシュートを決めた。「あれはJリーグで学んだものだ」と言われてうれしかったですよ。
二宮: なるほど。自らの攻撃の幅が日本に来て広がったわけですね。Jリーグがスタートした頃は、外国から名指導者も大勢やってきました。フリューゲルスではFCバルセロナのコーチとしてリーグ4連覇に貢献したカルレス・レシャックが指揮をとりましたね。
山口: 彼の発想は今までにないものでした。普通、チームづくりってディフェンスから入るじゃないですか。ところが、彼はまず最初、攻撃から取りかかった。「だって相手はツートップ。うちは3−4−3だから攻撃の枚数は1枚余る。こっちのほうが(攻撃に)人数かけれるだろう」って(笑)。
それで練習ではボール回ししかしない。しかもピッチには水を撒いていましたから(笑)。これだとパススピードが上がるので、アバウトなプレーをしたらつながらない。パス、トラップの質を上げることを求めたかったんでしょう。
二宮: 守りからカウンターを狙う日本的発想ではとまどいも大きかったのでは?
山口: 守備の練習はいつやるんだろうと思いましたよね。でもレシャックは、「そんなことよりパス回せ!」と(苦笑)。半分冗談で言ったのでしょうが、僕には「センターサークルから出るな」と指示を出されたことがあります。つまり、自分が動くのは、ほんのちょっとでいいというわけです。それよりもどんどん速いパスを出せば回ると。自分からボールに寄ったりすると、すごく怒られたことを記憶しています。
二宮: 未だに日本では「運動量で相手を上回れ」という意見があります。でも90分間、ずっと走り続けるのは不可能。時間帯に応じた効率のよいプレーが求められています。レシャックは残念ながらフリューゲルスでは結果を残せませんでしたが、もし今、日本で監督を務めていたらおもしろかったでしょう。
山口: 少し日本に来るタイミングが早すぎたのかもしれませんね。2月に(指導者の)S級ライセンス取得のための海外研修では彼を頼ってバルセロナに行ったんですけど、「もっともっと日本でやりたかった」と言っていました。あの頃は今とは違って、Jリーグでプレーすれば、ワールドクラスのサッカーを体感できたし、学べたというメリットはありましたよね。
<現在発売中の『第三文明』7月号では、さらに詳しいインタビューが掲載されています。こちらもぜひご覧ください>