ジョージを離れて第3戦の会場となるラステンバーグへ移動。
 南アフリカには南アフリカ航空という大きな航空会社があるのだが、我々が好んで使っているのはリーズナブルな「ワンタイムエア」。価格がかなり安く、機体が大きくて席ゆったり座ることのできる利点がある。日本にいるときは聞いたこともない格安航空便に「大丈夫なのだろうか」という不安はあったが、南アフリカ生活を始めてからは「ワンタイムエア」をひいきにしている。ライターのS君は「ここのスチュワーデスさん、美人ですよね」とささやかな楽しみにしているようだ。
(写真:デンマーク戦当日に食べた勝負飯。ラム肉で力をつけた)

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◇6月23日 治安の悪さをこの目で実感

 約2時間のフライトを経てヨハネスブルクに到着。ここからはレンタカーを借りて、一路ラステンバーグを目指した。
 ヨハネスブルクの治安の悪さを聞いていただけに、空港からヨハネスブルクの町を通ることなくすぐ高速道路に乗れたのはよかった。だけど、時々、後部座席の窓ガラスに黒い布が張られている車が何台か目にとまった。
 話には聞いていたが、あれは間違いなく襲撃を受けた痕跡だった。窓を割られて盗難にあうというのはよくある光景のようで、頻発しているだけにわざわざ修理しないのだろうと勝手に推測してしまった。

 2時間かけてラステンバーグのホテルに到着。チェックインしてから試合会場となるスタジアムへと向かった。試合時間とほぼ同じ時刻の午後8時15分からの練習だったが、とても寒くてカイロなしでは練習を見ていられなかった。選手たちは重圧もない様子で、デンマーク戦に向けてリラックスした雰囲気だった。
 岡田監督は「我々は1+1ではおそらく勝てないだろう相手に、100メートル競走では勝てないかもしれないけど400メートルリレーなら勝てる可能性がある。そういうものを醸し出せるチームであるというのは思っています」と自信のコメント。
 明日のデンマーク戦が日本代表にとって運命の日となるだけに、試合をしっかりと目に焼き付けておこうと思う。

◇6月24日 力を与えた日本人サポーターの姿

 宿泊先のホテルで昼食をとってから試合会場へ。いつも試合では食事をとれないだけに、お勧めのミックスグリルを注文。ソーセージに、ラム、ポークとガッツリと食って、試合に備えた。
 スタジアムにはJリーグとあまり変わらない3万人弱の観衆しか集まらなかったが(世界的にデンマーク―日本というカードは渋すぎた?)、日本人サポーターの多さにびっくり。日本代表の奮闘ぶりを受けて、駆けつけたサポーターたちも多いのだろう。サムライブルーのユニホームを身にまとったサポーターたちが声援を送った効果もあって、堅守のデンマークから3点も奪って勝利することができた。
(写真:スタンドから大きな声で快挙を後押ししたサポーターたち)

 試合終了と同時に、控えメンバーがピッチのなかに飛び込んでいって、チーム全員が勝利とグループリーグを喜んでいた。記者席からも拍手が送られ、岡田ジャパンにとって歴史的な日となった。
 試合が終了して取材を終えると午後11時近く。そこから原稿を書き始めて午前3時まで仕事をしてから、車で空港へ。徹夜での仕事だっただけに、運転ではちょっと居眠りしそうになってしまった。危ない、危ない。

◇6月25日 疲労と余韻に包まれた快挙翌日

 朝、ジョージに到着すると、さすがに睡魔に襲われた。ゲストハウスに到着すると一緒に行動していたライターさんたちも疲れ果てていたので、部屋のあちこちでみんな寝てしまった。グループリーグを突破して安堵したことも理由にあるし、頻繁な移動で疲れてもいる。昼は代表練習を取材して、レストランで食事をしてからゲストハウスに戻る。
(写真:スタジアムの記者席はこのような作り。テレビも備え付けてあり贅沢な環境だ)

 この日は、日本からたくさんの連絡をもらった。サッカー関係者だったり、メディアの人からだったり。大体が「日本はよくやった。日本中が感動してすごいことになっている」という興奮した声だった。
 確かに岡田ジャパンはよくなっているし、特にデンマーク戦の戦い方は攻撃面でも素晴らしかった。でも、カメルーンもデンマークも日本をなめて戦っていた印象もあり、日本にとってはここからが勝負だと思う。お祝い一色のムードだと、不完全燃焼でトルコに負けてしまった日韓W杯の二の舞になってしまう。ここはぜひ、「よくやった」という気持ちを抑えて、「まだまだだ」というムードになればいいなと個人的には思っている。
 なんてことを思いながら、きょうはリラックスした一日を送った。

(このレポートは不定期で更新します)

二宮寿朗(にのみや・としお)
 1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、サッカーでは日本代表の試合を数多く取材。06年に退社し「スポーツグラフィック・ナンバー」編集部を経て独立。携帯サイト『二宮清純.com』にて「日本代表特捜レポート」を好評連載中。