広島から松山まではスーパージェットという高速船で1時間ちょっとである。船の窓から眺める瀬戸内海の風景は息をのむほど美しい。

 カープの主催試合が松山で行われる時、スーパージェットは広島からやってくるカープファンでいっぱいになった。

 調べてみると、カープは2000年、01年、04年と松山・坊っちゃんスタジアムで公式戦の主催試合を計5試合行っている。00年は球場のこけら落としでもあった。

「最近、なんでカープは松山で試合をやらんのやろ。だから松山ではカープファンが減っているんじゃよ」

 そう語ったのは、大のカープファンである焼き鳥屋・くし秀のマスターである。御年73歳のマスターは衣笠祥雄と親交が深く、松山ではカープファンの集まる店として知られている。そのマスターが「カープファンが減っている」というのだから、事態は深刻である。

 広島の対岸の愛媛県は巨人ファン、阪神ファンに次いでカープファンが多く、一時は2軍の本拠地を松山に移すのでは、とウワサになったこともあった。

 近年、愛媛では阪神ファンが増加傾向にある。秋季キャンプを張る東京ヤクルトファンもいる。カープが10年も主催試合を行っていないことも遠因のひとつかもしれない。広島と入れ替わるように05年以降は阪神が松山で主催試合をたびたび実施している。

 そもそもカープに「瀬戸内をフランチャイズに」というマーケット拡大戦略はあるのだろうか。攻めの姿勢が見られないのが寂しい。

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)
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