カープで1000本以上のヒットを放ったキャッチャーはいない。常時、クリーンアップを打ったキャッチャーもいない。

 キャッチャーの場合、一番の仕事は「打撃よりも守り」だから、打てるキャッチャーがいないからと言って嘆いているわけではない。

 しかし、打てないよりは打てる方がいいに決まっている。巨人の阿部慎之助だって最初は“打高守低”だったが、守備が打撃に追いついてきたのは周知の通りである。

 プロ入り7年目の會澤翼は、カープにおいては稀有とも言える“打てるキャッチャー”である。昨年8月、横浜DeNA戦で山口俊から頭部に死球を受け、担架で運ばれた時には精神面での後遺症が心配されたが、どうやら杞憂に終わったようだ。

 6月27日の巨人戦では、2対2の8回に宮國椋丞から決勝ホームランをレフトスタンドに叩き込んだ。スタメンで出る時は5番に座ることもある。パ・リーグなら指名打者としてもやれるのではないか。

 短所を直しても長所は伸びない。長所が伸びれば短所は消える――。これは有森裕子や高橋尚子らを育てた陸上界の名伯楽・小出義雄の言葉だが、これは野球選手にも当てはまるのではないか。

 試合に出なければ、学ぼうにも学べない。彼の場合は少々、リード面でミスがあっても「その分はバットで取り返せ!」と発破をかけた方がいいのかもしれない。

(このコーナーは書籍編集者・上田哲之さんと交代で毎週木曜に更新します)
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