愕然とする、といえばいいのか、茫然とすると表現すべきか、そういうシーンを見てしまった(見たくはなかったが)。

 6月15日、北海道日本ハム戦。故障からの復帰登板となった前田健太は好投するも、打線もブライアン・ウルフら相手ピッチャー陣に抑えられ、8回表を終わって1-1の同点。

 8回裏1死から前田健太が乱れる。大引啓次に四球。大谷翔平、左中間二塁打。中田翔、敬遠の1死満塁から、稲葉篤紀に痛恨のタイムリーを浴びて、1-3。ここで降板。

 後にマエケンも述懐しているように、大引への四球が痛かったが、しかし、まだ2点差である。リリーフに立ったワンポイントの河内貴哉が鵜久森淳志を抑えて、2死二、三塁。

 ここでセットアッパー・今村猛、登板。打者はパ・リーグのホームラン王を争うミチェル・アブレイユ。ここをしのいでチェンジにしてしまえば、試合はまだまだわからない。

 さぁ、今村、初球をどう入るか――と勝手に期待して盛りあがっていたら、いきなりスライダーが真ん中高めへ……。

 えっ? アブレイユ、やすやすとライト前タイムリーで、1-5。愕然というべきか、茫然というべきかはともかく、試合はほぼ決まった。

 さらに9回表。相手クローザー武田久から絶好調の先頭・松山竜平がセンター前。最近の武田久は不安定だから、何が起きるかわからないぞ、と再度、気を取り直して期待していたら、ブラッド・エルドレッドは絵に描いたような見事なサードゴロ、ゲッツー。脱力。

 あえて言えば、今村やエルドレッドの責任ではない。これを今村の失投、エルドレッドの凡打というふうに個々の選手のプレーを責めても、カープの抱える問題は何も解決しないのではないだろうか。

 今村については、WBC以来の疲労の蓄積がある。このところ明らかに、いい結果が出ていないという現実がある。今村は苦しんでいるだろう。誰もがわかっていることだ。

(ご承知の通り、6月26日、今村は2軍降格となった。再調整もいいだろう。しかし、たとえば、15日のこのシーンで本当に今村を出す必要があっただろうか。逆転の可能性があるといっても、残るは9回のみで、2点ビハインド。しかも、不振にあえぐ登板過多気味の投手である。何度も言ってきたように、今村には、ある程度の休養を与えつつ起用するという、長期戦略が必要だったはずである。)

 また、エルドレッドにしても、たしかに当たれば飛ぶ、しかし、なかなか当たらないという現実は、チームの関係者だろうが、我々ファンだろうが、誰もが知っている。

 だからこそ、今村の場面では、少なくとも初球が甘くならないように、エルドレッドなら、なんとかゲッツーだけは避けるように……そういうチームとしての戦術(というほど大げさなものでもないか)が、あってしかるべきだろう。

 さらに言えば、マエケンの大引への四球にしても、カウント2-2から外角スライダーがわずかにはずれた。これは「ストラック・バッター・アウト!」と審判が叫んでもおかしくはなかった。

 しかし、カウントは3-2になったのである。それでも決め球スライダーを外角に続けて、今度は明らかにボール。マエケンは、こういう土壇場のギリギリのシーンで、右打者の外角にスライダーを続けることがあまりにも多くないか。12球団、知らぬ人のいない配球だろう。

 これとて、マエケンの責任とは思わない。こういう細部の一投一打に、そのバックボーンとなるチームとしての戦略、もっと言えば、“生き方”が感じられないのだ。

 正念場の夏に向けて、ここに大きな課題が宿っていると愚考いたします。

(このコーナーは二宮清純と交代で毎週木曜に更新します)
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