昨季、17勝(5敗)をあげ、沢村賞、最多勝、最高勝率の3冠に輝いた福岡ソフトバンクのエース攝津正のピッチングを見ていると、つくづく感じる。意識して高めに「はずす」ことはあっても、ボールが高めに「浮く」ことは、まずない。

「スピードも変化球も、人に自慢できるようなものは何もない」という攝津にとって、コントロールこそはプロで生き残るための唯一の道なのだ。

 とりわけ右バッターへのインコースのコントロールは絶品だ。ホームベースの端と右バッターの打席のラインまでの幅は15センチ程度だが、攝津は意識して、そこを突く。打者に踏み込みを躊躇させることで、外のボールを、より遠くに見せるのだ。

 攝津のコントロールへのこだわりは尋常ではない。ダーツでもフォームを確認しながら一投一投、丁寧に矢を放るというのだから徹底している。

 カープにはイニングが変わると、別人のようにガタッガタッと崩れてしまうピッチャーが何人かいる。コントロールに自信がないからカウントを悪くすると、ボールを置きにいってしまうのだ。特に高めの棒球は危険だ。ランナーが貯まったところでドカンとやられると、もう取り返しがつかない。

 ダーツでもフォームに気を配る繊細さ。凡庸ゆえの非凡。叩き上げのエースから学ぶことは少なくない。

(このコーナーは書籍編集者・上田哲之さんと交代で毎週木曜に更新します)
◎バックナンバーはこちらから