30日、中国・北京で開催の第15回世界陸上競技選手権最終日が行われ、女子マラソンは伊藤舞(大塚製薬)が2時間29分48秒で7位入賞を果たした。伊藤は日本人トップで8位以内に入り、リオデジャネイロ五輪代表に内定。優勝はマレ・ディババ(エチオピア)が、トラック勝負までもつれたデッドヒートを制し、2時間27分35秒でフィニッシュした。その他の日本勢は、前田彩里(ダイハツ)が2時間31分46秒で13位、重友梨佐(天満屋)が2時間32分44秒で14位だった。
 遅咲きの花、北京に咲く

 駆け抜けた北京の42.195キロは、リオへの助走路となった。2大会ぶり出場した世界選手権で伊藤は7位入賞を果たし、リオ五輪日本代表を決めた。

 最終日の最初の種目は女子マラソン。永定門をスタート地点に、北京国家体育場を38カ国・地域の62人が目指す。2連覇中のエドナ・キプラガトを擁するケニア、今シーズン世界ランキング1位のディババらのエチオピアに加え、ケニアから国籍変更したユニス・ジェプキルイ・キルワ(バーレーン)のアフリカ勢がレースの中心となることが予想された。伊藤、前田、重友の本人トリオがどこまで食らいつけるかがカギだった。

 曇り空の北京。ランナーたちを苦しめる日差しは、雲に隠れた。最初の1キロは3分30秒とスローペースでスタートした。4キロ過ぎで伊藤が先頭に立つと、それに従うように前田、重友が並ぶ。5キロ通過時は、17分51秒。日本勢が10人を超える集団を引っ張った。サンライズレッドのユニホームが眩く輝いた。

 10キロ通過は35分32秒、15キロは53分21秒。5キロのペースはそれぞれ17分41秒、17分49秒と安定したピッチを刻む。依然として先頭集団をリードする日本勢だ。20キロ通過は1時間11分19秒。中間地点あたりで、重友が飛び出し、ペースアップを図る。今大会の選考レースとなった大阪国際女子マラソンでの積極性を評価され、代表入りを果たした重友。持ち味を発揮する。

 25キロ、30キロ地点も重友が引っ張る。前田は集団の前方に伊藤は後方に位置取った。しかし、給水ポイントを過ぎると、鳴りを潜めていたアフリカ勢も徐々に牙を剥き始める。史上初の3連覇を狙うエドナ・キプラガトがペースを上げ、先頭を窺う。

 33キロを過ぎたあたりで、アフリカ勢が抜け出しにかかる。集団が一気にばらけ始め、重友、前田、伊藤の急激なペースアップについていけない。先頭グループはエチオピア2人、ケニア3人に加えキルワの6人。重友と前田は第2集団からも離される。一方、伊藤は入賞圏内で踏ん張った。

 伊藤はキム・ヒソン(北朝鮮)、ティルフィ・ツェガエ(エチオピア)と7位を争った。先頭集団から何度も離されながらも、後方で食らいつていた伊藤。粘りの走りでライバルを引き離しにかかる。35キロ地点で、キム・ヒソンとは1秒、ツェガエとは2秒だった差は、40キロ地点で42秒、45秒と広げていった。

 優勝争いは最後の最後までわからないデッドヒート。40キロを超え、石畳となってからディババ、キルワ、ヘラー・キプロプ(ケニア)ら4人に絞られた。トラック入ると、ディババを先頭にした三つ巴の争い。直線で抜け出したディババがわずか1秒早く駆け抜けた。意外にも世界選手権の女子マラソン初の金メダルをエチオピアにもたらした。

 7番目に北京国家体育場へと入ってきた伊藤は、日本人トップの7位をキープしたまま、2時間29分48秒でフィニッシュした。前田は13位、重友は14位。伊藤は、これまでの10度目のマラソンで一度も優勝がなければ、日本人トップ(2014年のウィーンは日本人女子は伊藤のみの出場)もなかった。スポットライトを浴びることなく、日陰にいた31歳のヒロインが2度目の世界選手権で輝いた。リオ五輪への切符を手にした。「今度はしっかり勝負できるように監督と頑張っていきたい」。大塚製薬の河野匡監督との二人三脚で、更なる飛躍を誓った。

 日本勢、五輪前年に目標届かず 

 大会の最終種目となった男子1600メートルリレーが米国の6連覇で終わり、9日間の熱戦は幕を閉じた。日本は47種目中24種目にエントリー。男子50キロ競歩の谷井孝行(自衛隊体育学校)の銅メダル、荒井広宙(自衛隊体育学校)の4位、女子マラソンの伊藤の7位と「メダル1、入賞2」だった。目標に掲げていた「メダル2、入賞6」に届かなかった。前回のモスクワ大会と比べても、選手団の人数が増加したにも関わらず「メダル1、入賞7」を下回った。

 誤算だったのは入賞以上が期待された男子マラソン、男子20キロ競歩、男子400メートルリレーが総崩れだった。男子マラソンは9大会ぶりの入賞なし。エース格の今井正人(トヨタ自動車九州)が欠場したとはいえ、最高位は藤原正和(Honda)の21位と惨敗だった。世界記録保持者の鈴木雄介(富士通)をはじめ、世界ランキング上位の3人を揃え、複数入賞も男子20キロ競歩も振るわなかった。春先の記録と夏場の大会とのギャップ。ピーキングの難しさを改めて感じたのではないだろうか。5月の世界リレー選手権で銅メダルを獲得した男子400メートルリレーは、バトンミスが響き予選敗退。7年前の北京五輪で銅メダルを獲得した鳥の巣スタジアムで、奇跡の再現とはならなかった。

 今大会はリオ五輪の選考も兼ねており、入賞以上の日本人トップで代表に内定する。来年のリオ行きの切符を掴んだのは谷井と伊藤のみ。とはいえ、初出場組の活躍など光明がなかったわけではない。男子やり投げの新井涼平(スズキ浜松AC)は9位。入賞にわずか数センチの差だった。女子5000メートルは鈴木亜由子(日本郵政グループ)は決勝でもアフリカ勢を相手に積極的なレースを展開。9位と入賞には0秒29届かなかったが、自己ベストを更新した。最年少の16歳サニブラウン・アブデル・ハキーム(城西大城西高)も世界相手に臆することなく、男子200メートルで準決勝に進出する堂々の走りだった。

 他国ではケニアの躍進が目立った。金メダル7個はジャマイカと並んでトップタイ。総数では米国に次ぐ16個で2位だった。元々得意としていた長距離に加え、男子やり投げと男子400メートルハードルで金メダルを手にし、更なる可能性を示した。ジャマイカは、スプリンター王国の実力を改めて証明。ウサイン・ボルト、シェリー=アン・フレイザー・プライスという男女のエースが、それぞれ3冠と2冠と出場種目で金メダルを獲得した。メダル総数12個のうち11個がスプリント系の種目だった。陸上大国の米国は前回と同じ6個の金メダルを獲得した。ケニア、ジャマイカには1個及ばなかったが、総数18個はトップで層の厚さを見せた。男子1600メートルリレーでは6連覇、男子十種競技のアシュトン・イートンが世界記録を更新するなど、存在感も大きかった。

 中国は開催国の意地を見せた。女子20キロ競歩で金メダル1個。総数は7個だった。近年結果を残しつつある短距離種目では、スー・ビンチャンが男子100メートルでアジア初の決勝進出。男子400メートルリレーでは銀メダルを獲得した。跳躍種目でも目覚ましい活躍を見せた。男子走り幅跳びで18歳のワン・ジアンナンが銅メダルに輝き、この種目同国初のメダルをもたらした。最終日には男子走り高跳びのチャン・グオウェイが銀メダルを手にし、地元ファンを盛り上げた。

 主な結果は以下の通り。

【女子マラソン】
1位 マレ・ディババ(エチオピア) 2時間27分35秒
2位 ヘラー・キプロプ(ケニア) 2時間27分36秒
3位 ユニス・ジェプキルイ・キルワ(バーレーン) 2時間27分39秒
7位 伊藤舞(大塚製薬) 2時間29分48秒
13位 前田彩里(ダイハツ) 2時間31分46秒
14位 重友梨佐(天満屋) 2時間32分44秒