6日、リオデジャネイロパラリンピックのアジア予選を兼ねたIBSAブラインドサッカーアジア選手権が東京・代々木競技場フットサルコートで行われ、日本代表(世界ランキング9位)は、マレーシア代表(同30位)にFP川村怜の2ゴールで2−0で勝利した。グループリーグ(GL)5試合を終え、日本は3勝1分け1敗の勝ち点10で3位。韓国代表(同14位)との3位決定戦に進んだため、上位2カ国までに与えられるリオパラリンピック出場権獲得はならなかった。GL1位の中国代表(勝ち点13)と同2位のイラン代表(勝ち点11)がリオ行きの切符を手にした。
(写真:キックオフ直前。国歌を歌う日本のスターティングメンバー)


 川村、3試合連続ゴール(代々木)
日本代表 2−0 マレーシア代表
【得点】
[日本] 川村怜(22分、43分)

「ほんのちょっとのところだったと思っています。我々がつくってきたサッカーの方向性は間違っていなかった。わずかなところでリオへの切符が届かなかった」
 魚住稿監督は目を赤くして、試合を振り返った。初のパラリンピック出場を目指した日本だったが、またしてもあと一歩届かなった。6カ国中2カ国が手に入れることのできるリオパラリンピックの出場切符。3位の日本と2位イランとの勝ち点差は、わずか1だった。

 GL初戦を落とした日本は、2戦目のイランでスコアレスドローに終わった。2試合連続無得点と課題が露呈した。韓国とインドには連勝したが、上位の中国とイランがドローに終わったことで暗雲が立ち込めてきた。

 自力でのパラリンピック出場はならず、「人事を尽くして天命を待つ」かたちとなった。この日、行われたGL最終戦。第3試合の日本の前に第1試合の中国、第2試合のイランが勝利したことで日本のリオパラリンピック出場の可能性は完全に潰えた。

 キックオフ前にすべてが決まった試合は、酷な50分間だったかもしれない。それでも代々木に詰めかけたサポーターは声を枯らしてエールを送り、選手たちはそれに応えようとした。

 しかし試合開始前の雨で、スリッピーなグラウンドコンディション。キックオフ後も強い雨が降り続け、選手たちの身体を容赦なく叩いた。3分、4分、7分と川村がシュートの雨を降らしたが、ゴールネットを揺らすことはできなかった。FP黒田智成が得意のドリブルからシュートに持ち込んだが、13分のシュートはバーに弾かれた。
(写真:この日はノーゴールだったが、韓国とインド相手に2試合連続決勝点をあげたエースの黒田)

 沈黙を破ったのは、エース黒田以上に得点を挙げている最年少の川村だ。22分、GK佐藤大介のスローからゴール前フリーで受けると、反転してシュート。ゴール左に突き刺さり、歓声を呼び込んだ。前半は1−0でリードして終了した。

 後半に入っても、雨足は弱まることなかった。ボールコントロールを一層難しくさせた。水分を多く含んだピッチは球足を狂わせ、選手たちのスピード感をも奪った。6分に川村がPKを得たが、自らが蹴ったシュートはコースが甘くGKに防がれた。

 嫌なムードを振り払ったのは、今大会チームの得点源となっている川村。左CKからドリブルで仕掛けると、ゴール正面で右足を振り抜く。一度は空振りしたものの、ボールを拾い直した。再びドリブルで、マークを剥がすと、ゴール右に叩き込んだ。26歳のストライカーが今大会7得点目を挙げた。

 残り5分を切ったところで、キックオフから降り続いていた雨が滝のようになった。滑りやすいグラウンドはもちろん周囲の声が生命線となるブラインドサッカーにとっては、プレーを続けるのは危険な状態。審判団は試合中断を決めた。

 10分以上の中断中もサポーターは大声で日本の選手たちを鼓舞した。再開後、終了間際にチーム4つ目のファウルで第2PKを与えたが、守護神の佐藤が両手で弾き出した。このまま試合終了のホイッスルが鳴り、シャットアウト勝ち。2−0でGL最終戦を勝利で飾った。

「ここまで4年間、多くの人に支えられて総力戦を掲げてやってきた。選手はひたむきに4年間やってくれた。それを支えてくれたスタッフ、素晴らしい応援。今は悔しい気持ちでいっぱいです」と魚住監督。キャプテンの落合啓士はサポーターへの挨拶で「4年間ありがとうございました!」と頭を下げ、号泣した。
(写真:連日応援に詰めかけたサポーター。プレー中は声を飲み込んで祈った)

<同じ夢を見よう。見えない人も、見える人も。>
 大会のポスターに刻まれたキャッチコピー。日本の選手もスタッフも、そしてサポーターもパラリンピックという夢に向かって突き進んだが、来年のリオへの道は閉ざされた。普段は陽気な佐々木ロベルト泉はサポーターに向かって叫んだ。「夢は終わってないから!」。5年後は自国開催で自動的に出場権を与えられる。だが、このまま指をくわえたままで待ってはいられない。

 魚住監督の下で構築した日本の守備戦術「ダイヤモンド」は堅く、5試合で1失点と守備は機能した。しかし、序盤の中国、イラン戦で無得点に終わるなど攻撃面での課題は払拭できなかった。夢のつづきは東京パラリンピックでの上位進出だ。代々木で大粒の涙に濡れた夜。この悔しさを胸に刻み、ゴールを目指す。

(文・杉浦泰介/写真・杉浦泰介、安部晴奈)