今年10月、V9巨人を築き上げた名将・川上哲治さんが帰らぬ人となりました。その川上さんを支えた参謀役として有名なのが牧野茂さんです。川上さんも、「牧野茂の存在なくしてV9はなかった」と語っています。

 牧野さんの他にも、島野育夫さんや黒江透修さん、現役で言えば、中日・森繁和ヘッドコーチや巨人・橋上秀樹戦略コーチがそれに当たるでしょう。

 実は、弊社にも名参謀が存在します。事務担当、B型女子のHさんです。

 近年、事務所では寒い時期には夜、鍋をすることがよくあります。もちろん、リーダーは事務所きっての“鍋奉行”と自称(?)する編集長。具材選びから味付けまで、編集長がテキパキと決めていきます。

 さらに、出来上がった鍋をお皿に取り分けるのも、編集長です。全員に均等に具材がいくように、細心の注意が払われます。

「あったかいうちに食べろよ。冷めてからでは、せっかくの美味しさが逃げてしまうからな」
「はい、いただきます!」

 編集長の号令とともに、私たちスタッフはアツアツの鍋をいただくのです。

 しかし、締め切りをいくつも抱えている編集長ですから、なかなか作る時間が取れません。そこで、代わりに作ってくれるのが、Hさんなのです。編集長が手が離せないことを察知すると、他のスタッフが気づかない間にスッとキッチンに行き、ササッと作ってくれます。

 そして出来上がると、編集長室に行き、「編集長、鍋が出来上がりました」とソッと呼びに行きます。そうして編集長が私たちに取り分けてくれるのです。つまり、Hさんはあくまでも影武者。“鍋奉行”の顔をつぶすようなことは絶対にしないのです。その気配りたるや、同じ女性として頭が下がる思いです。

 編集長もそんなHさんに絶大なる信頼を寄せています。先日の鍋には広島産のカキが入っていたのですが、「みんな平等にひとつずつ入れているからな」と言いつつ、編集長は他のスタッフに気付かれないように、そっとHさんのお皿にカキを2つ入れていたのです。

 言葉ではなく、行動で示された2人の信頼関係に、私はひとり、感動していたのでありました。

(スタッフS)
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