暑い日が続いておりますが、読者のみなさまはいかがお過ごしでしょうか。「心頭滅却すれば火もまた涼し」とはいいますが、「心頭滅却できなければ火はただ熱し」です。冷房の効いた部屋の生活からは当分、抜け出せそうにありません。

 さて、そんな暑いある日に遭遇した出来事についてお話します。

 僕はたまっていたテープ起こしを行っていました。僕の席はスタッフルームの入り口から離れており、イヤホンをつけてパソコンに集中していると、誰かが部屋を出入りしても気づかないことがよくあります。その日もいつものようにテープ起こしに集中していました。

 すると、ふとドアの方に気配を感じて視線を向けると、茶色いモコモコした物体を首に付けた編集長が立っていました。

「ナンダアレハ?」
 思わず僕は二度見してしまいました。しばらく凝視していると編集長が「なんだよ?」と一言。「いやいや、こっちのセリフですよ!」と心の中で叫びました。

「編集長、首につけているそれ、何ですか?」
「ああ、これか。移動中に使う首枕だよ。今日はちょっと首が痛くて、試しにつけてみたんだ。やっぱり楽だな」

 なるほど、そういうことだったのか……。ただ、よほど付け心地が良かったのか、編集長は夕食のために外出する時も首枕を装着していたようです。
「編集長! 首枕つけたままですよ!」

 ドアに一番近い席のT.S.さんに指摘され、慌てて首枕を書斎へ置きにいく編集長の足音だけが聞こえてきました。

(Y.S.)
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