「ゴホン、ゴホン」
 健康自慢のH女史が珍しく体調を崩している。「私、インフルエンザにかかったかもしれない」。見れば頬のあたりが、やや赤くなっている。

「この時期にインフルエンザはないんじゃないの?」「だって、体温計で測ったら37度5分も熱があったんですよ」。「インフルエンザなら、もっと熱が上がるはずだよ」

 しきりに額に手をやるH女史。「なぜ熱が上がっちゃったんだろう。規則正しい生活をしているのに……」

 そう言えば、気になることがあった。ここ数日、H女史がパソコンに向かって、ああでもないこうでもない、と何事かブツブツつぶやいている姿を、何人かのスタッフが目撃していたのだ。

 そこで、本人に訊ねた。「最近、根を詰めて仕事し過ぎたんじゃないの?」。次の瞬間、H女史はバネ仕掛けの人形のように立ち上がり、私の顔をまじまじと見つめて言った。「それです、それです。タイトルを考えている最中に、急に頭が痛くなったんです」

 それを受け、黙って聞いていたIがボソッとつぶやいた。「それって知恵熱のことじゃないですか」。スタッフルームが一瞬のうちに凍りついたのは言うまでもない。

(編集長)
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