29日(現地時間)、アジアカップ2011決勝がカタール・ドーハで行われ、日本は豪州と対戦した。序盤から日本は細かいパスをつなぎ試合を組み立て、対する豪州は高いボールをゴール前へ送りチャンスを作る。互いに決定機を迎えながら90分間でゴールを生むことはできず延長戦に入る。待望の先制点を入れたのは日本だった。延長後半5分、左サイドハーフにポジションを上げた長友佑都(F東京)がクロスを上げ、途中出場の李忠成(広島)がボレーシュートでゴールネットを揺らした。その後残り10分間、豪州のパワープレーをはじき返し1−0で試合を終え、日本が2大会ぶり4度目のアジアカップ制覇を果たした。この優勝で2013年にブラジルで行われるコンフェデレーションズカップの出場権を手にし、大会MVPには本田圭佑(CSKAモスクワ)が選ばれた。

 ザック采配が当たり、就任後9戦負けなし(ハリファ)
日本 1−0 豪州
【得点】
[日] 李忠成(110分)
 準決勝の韓国戦で香川真司(ドルトムント)が右足を骨折するというアクシデントに見舞われた日本は、香川に代わり藤本淳吾(清水)を起用し、決勝に臨んだ。相手の豪州は今大会5試合でわずか1失点。英・プレミアリーグで活躍するGKマーク・シュウォーツァー(フルアム)を中心とした堅守をどのように破るか、ザックジャパンの攻撃陣に注目が集まった。

 試合は互いに特異のプレースタイルを披露しながら進んでいく。日本は細かいパスを回し相手陣内へと侵入し、対する豪州はフィジカルの強いハリー・キューウェル(ガラタサライ)、ティム・ケーヒル(エバートン)をターゲットにし、高いクロスやロングフィードで攻撃を組み立てた。

 前半から多くのチャンスを作ったのは豪州だった。右サイドからのクロスを中心に何度も日本の最終ラインを慌てさせる。しかし、日本の守護神川島永嗣(リールセ)が好セーブを連発し、相手に先制点は許さなかった。

 パスを繋ぎながらも、効果的な攻めを繰り出せない日本は、後半11分に大胆な策に出る。機能していなかった右サイドハーフの藤本に代わって岩政大樹(鹿島)を投入。センターバックの一角の今野泰幸(F東京)を左サイドバックへ配し、長友を中盤に上げる。そして岡崎慎司(清水)を右サイドへ移し反撃に転じた。岩政、今野、吉田麻也(VVVフェンロ)が3バックのようなポジションを取りつつ、時には内田篤人(シャルケ04)が最終ラインに加わると4バックにも変化し、流動的なフォーメーション転換で豪州のリズムを封じる。岩政の高さで安定感の増した最終ラインは日本の攻めにも勢いを与えた。

 この試合初めて、日本に決定機が訪れたのは後半20分。左サイドを突破した長友が低いクロスをあげ、そこへ走りこんだ岡崎がヘディングでゴールを狙う。シュートは惜しくもわずか数センチ右へと逸れたものの、ゴールの可能性の感じるプレーになった。

 逆に、日本の守備が綻びを見せたのがその2分後。縦に入ったボールに対し岩政がバウンドを読み間違えると、そのボールをキューウェルが拾い川島と1対1になる。このピンチに川島はキューウェルとの距離をつめ右足でシュートをはじき出す。絶体絶命の場面を切り抜けると、90分間を無失点で押さえこみ、試合は延長戦へと突入した。

 延長に入っても、豪州はパワープレーを続け日本は幾度もピンチを迎える。延長前半終了間際には右サイドからのクロスをロビー・クルーズ(メルボルン・ビクトリー)がヘディングシュート。ここも川島が右手一本でシュートコースを変え得点を許さない。再三のピンチを回避すると、流れは徐々に日本へと傾いていく。

 延長後半に入ってからは豪州の出足が遅くなり、日本がサイドからチャンスを作る。特に左サイドの長友は延長に入っても全く運動量が落ちることなく、豪州陣内へと何度も切り込んでいった。

 そして、日本に歓喜の時間が訪れたのは5分だった。遠藤保仁(G大阪)からのボールを左サイドで受けた長友がDF2人をひきつけながらPA付近までドリブルすると、左足でクロスボールを供給する。クロスに対し、ゴール前へ走りこんだ李がフリーの状態でダイレクトで左足を振り抜く。押さえの利いたシュートは豪州ゴール左隅に向かい、名手・シュウォーツァーも全く反応できずゴールネットを揺らした。延長前半に前田遼一(磐田)に代わって投入された李のゴールで日本が勝ち越しに成功する。

 残り10分、日本は豪州のパワープレーにさらされたものの、川島、岩政、吉田らが体を張った守備をみせゴールを許すことなく、1−0のまま試合終了。日本が豪州を下し4度目のアジアカップ制覇を達成した。4度目の戴冠は史上最多の記録を更新。さらにこの優勝で再来年ブラジルで行われるFIFAコンフェデレーションズカップの出場権を獲得し、プレW杯を経験できる貴重な権利を獲得した。

 決勝戦で冴えたのは、川島のセーブとザッケローニの采配だった。これまで出場機会に恵まれていなかった藤本が試合にフィットしていないと見るや、藤本を交代するだけでなく豪州の高さに対抗するために岩政を投入しシステムも変えた。これほど柔軟に陣形を変更した日本代表監督は近年いなかった。さらに、準々決勝では伊野波雅彦(鹿島)、準決勝では細貝萌(アウグスブルク)、そして決勝の李と、途中交代の選手が得点を挙げ優勝を勝ち取った。結果論とはいえ、彼らが試合を決める働きをしたのは驚きの一言だ。「このチームの強さは、ベンチスタートの選手が力を出してくれること」と試合後に語ったザッケローニ監督。監督が選手を信頼し、選手が監督の期待に応えるという好循環でアジアの頂点に立った。

 ザッケローニが就任後、日本代表は9戦を消化し7勝2分けと負けがない。対戦相手もアルゼンチン、韓国(2試合)、豪州など決して弱い国ではない。南アフリカである程度の結果を出した日本はさらなるステージに上がりつつある。次の公式戦は7月にアルゼンチンで行われる南米選手権。アジアの枠を超え、アルゼンチンをはじめとした南米の強国を相手にどのような戦いを見せるのか。アジアチャンピオンの称号を得て臨むコパ・アメリカで、さらなる進化を遂げる日本を見せることができれば、W杯ベスト16以上の地位を築くことができる。アジアの力を世界に示すためにも、南米で善戦以上の戦いを見せなければならない。アジア王者の責任を胸に、7月の南米でさらなる飛躍を誓いたい。

(大山暁生)

<日本代表出場メンバー>

GK
川島永嗣
DF
今野泰幸
吉田麻也
内田篤人
→伊野波雅彦(120分)
長友佑都
MF
遠藤保仁
長谷部誠
藤本淳吾
→岩政大樹(56分)
岡崎慎司
本田圭佑
FW
前田遼一
→李忠成(98分)