ボクシングのWBC世界ミニマム級タイトルマッチが11日、神戸ワールド記念ホールで行われ、挑戦者で同級10位の井岡一翔(井岡)が王者のオーレドン・シッサマーチャイ(タイ)を5RTKOで下し、世界初挑戦でタイトルを獲得した。井岡はプロ7戦目での戴冠で、辰吉丈一郎、名城信男の持っていた王座奪取の日本人最速記録(8戦目)を更新した。これで日本のジムに所属する現役王者は7人に増え、史上最多タイとなった。
 40戦無敗の王者に対して、全く打ち負けなかった。オーソドックススタイルだが、試合を決めたのは強烈な左だ。まず2R、相手が得意の左を振ったところへ左を返す。これがアゴをとらえるクリーンヒット。オーレドンはヒザから崩れ落ちた。

 井岡がその後もジリジリと距離を詰め、ジャブからボディと相手を攻め立てる。相打ちも辞さない積極的な姿勢が、6度の防衛を果たした王者から完全に主導権を奪った。4Rにはノーモーションの右が何度もオーレドンの顔をとらえ、ラウンド後の公開採点でも2者が挑戦者を支持した。

 そして5R、オーレンドンが前に出てきたスキを見逃さなかった。距離を詰めての打ち合いから左ボディがタイ人のみぞおちに突き刺さる。今まで1回も負けたことのない王者が苦悶の表情を浮かべ、キャンバスに沈んだ。

 同ミニマム級で初代王者に輝いた井岡弘樹はおじにあたる。父も元プロボクサーで、高校時代は粟生隆寛(現WBCスーパーフェザー級王者)らに次ぐ6冠を達成した。その素質は折り紙付きだったとはいえ、今回は階級をひとつ下げての世界挑戦。昨年10月に日本王座を獲得したばかりで、経験不足を指摘する声もあった。

 しかし、21歳の新鋭はリング上で周囲の予想を上回る成長をみせ、一気に世界の頂点に立った。他のスポーツをみても、同年代には野球の斎藤佑樹(北海道日本ハム)やサッカーの香川真司(ドルトムント)らがきらめく。そんな黄金世代からボクシング界に現れた新星。夢は「4階級を獲る」と壮大だ。ここから先、どこまで翔くのか、楽しみな新王者が誕生した。