2011年のプロ野球は大学出身ルーキー投手が花盛りだ。その中でも、開幕ローテーション入りを確実としているのが157キロ右腕の巨人・沢村拓一(中大)である。身長183センチ、90キロの偉丈夫。下半身もガッチリしており、体格だけなら江川卓や野茂英雄にも見劣りしない。
 高校時代は無名だったこの沢村を育てたのが、中央大学硬式野球部監督の高橋善正である。サイドスローからのシュートやシンカーを武器にし、東映、巨人で60勝81敗7セーブ、防御率3.34という成績を残した。1971年にはプロ野球史上12人目の完全試合を達成している。
 プロのレベルを知る高橋の目に沢村は、どう映っているのか。二宮清純が直撃した。
二宮: 沢村が大学に入ってきた時の印象は?
高橋: 彼は高校(佐野日大)時代、3番手ピッチャーだったんですよ。故障もあって高校3年の時はほとんど放っていない。セレクションを受けた時の印象も、体が大きいとか、クセのない投げ方をしているなとか、そんなもんですよ。

二宮: ボールは速かったですか?
高橋: 確か141キロのボールを1球放ったかな。2年生までは全く大したことなかった。ボールの威力は多少あったけど、要するに速い球を“ぶん投げている”だけだったからね。変化球ではほとんどストライクが入らなかった。

二宮: 成長の兆しが見られたのは?
高橋: 3年の秋ですよ。変化球でストライクが取れないから、結果、真っすぐに頼る。それを狙い打たれる。オレに怒られっぱなしだったものだから、変化球の精度の重要性に気がついたんでしょうね。

二宮: 今は何種類、変化球を持っていますか?
高橋: カーブとスライダー、あとはフォークボールかな。

二宮: シュート系はないんですか? 監督がシュートの名手なのに。
高橋: いずれはそういうボールが必要になると思うけど、問題は本人が納得して覚えようとするかですよ。

二宮: 聞くと太ももは68センチもあるそうです。まるで競輪選手並みですね。ウエイトトレーニングの成果といっていいでしょう。
高橋: 大学に入った頃は(ウエイトトレーニングを)やっていると聞かなかったけど、2年になった時かな、まわりが「沢村、ウエイトトレーニングですごい重量をあげていますよ」と言ってきたよ。そこで本人に訊いたね。「オマエ、上(上半身)も下も(下半身)もやっているのか?」と。そしたら「下だけです」と言うから安心した。

二宮: 評論家の中には「上半身、とりわけ胸や腕の筋肉をつけすぎると、しなやかさが失われる」という人もいますね。
高橋: オレもそう思う。腕に筋肉がつきすぎると腕が振れなくなる。沢村はそのことを知っていたのかな。「誰に教わったんだ」と訊いたら「上には元々、自信があったので下だけやりました」と言っていたね。

二宮: ズバリ今季、彼は何勝しますか?
高橋: 今の彼のコントロールじゃ勝っても5勝くらいだろう。カーブもスライダーもそうだけど、少なくともストレートは今より2、3割は制球力をアップさせなくてはいけない。

二宮: コントロールはまだまだですか?
高橋: 2アウトから8番バッターにストレートの四球を与えたりするから。まだ自分で意識してストライクが取れない。どこで(ボールを)リリースしていいかわかっていないんだ。

二宮: アウトローにビシッと決まれば、あの球威ですから、そう簡単に打たれることはないと思うのですが……。
高橋: 残念がらそういうボールがまだ少ないんだよ。東都でそんなピッチングができるのは亜大の東浜(巨)だけだよ。東洋大の藤岡(貴裕)もいいボールのキレをしているけど、まだボールが高いね。

二宮: 沢村が1軍で2ケタ勝つための条件は?
高橋 やはり狙ったところに8割近くは投げられないとダメだろうね。今は学生相手でも、まだ5割くらいしか狙ったところに投げられない。それでも学生だから空振りにとったり、フライを打ち上げさせることができる。だけど、これがプロだとどうなります?
 たとえば巨人が相手だとします。小笠原(道大)、ラミレス、阿部(慎之助)に対してはホームラン、ホームラン、3塁打だよ。「そんなピッチングやっていて、(1軍の)ローテーションに入れるわけねぇだろう!」と何度かカミナリを落としたことがあるよ。
 ただね、あの子は学習能力が高い。だからプロのキャンプに参加して“やっぱり、こうしなきゃダメなんだ”とわかったら対応できると思う。その意味で“伸びしろ”部分はたくさんある。

<この原稿は講談社『本』2011年3月号に掲載された内容から再構成したものです。なお3月25日発売の『本』4月号では高橋監督へのインタビュー第2弾が掲載されています。こちらもお楽しみに>