「がんばろう! 東北」をスローガンに被災地球団として勝ち星を重ねてきた東北楽天も、ここにきて失速気味だ。その原因には打線の不調に加え、勝利の方程式が確立されていない点が挙げられるだろう。球団は新守護神として豪速球右腕のロムロ・サンチェスを獲得したが、このところ3試合連続で抑えに失敗し、最終回を安心して任せられる状況ではない。投手陣を預かる佐藤義則コーチは、阪神時代の2003年には、ジェフ・ウィリアムスを抑えにしてリーグ優勝を果たし、北海道日本ハム時代にはMICHEAL中村をクローザーにしてリーグ連覇を達成した。この楽天では抑えに対してどんなプランを持っているのか。開幕前の二宮清純のインタビューから紐解きたい。
二宮: 星野仙一監督は中日時代の宣銅烈にエディ・ギャラード、阪神時代のウィリアムスと勝利の方程式を固定したチームづくりをしますね。
佐藤: 僕が阪神のコーチだった時のジェフはうれしい誤算ですよ。最初は3人くらい候補がいて、何回かビデオを見て獲得した外国人なんです。当時の阪神は左が手薄だったから、あのボールなら左打者も抑えられるなと。それが投げるたびにどんどんボールが速くなっていった。

二宮: 2003年はシーズン途中から抑えになり、25セーブをあげました。
佐藤: あのスライダーはちょっと日本人には投げられないボールですね。曲がりが大きくて速い。ブレーキがきいてキュッと曲がる。もちろんストレートのスピードも速い。年々、スライダーは曲がらなくなったけど、彼にはだいぶ助けられましたよ。

二宮: 阪神時代、星野監督とは抑えについて、どんな話をしたんですか。
佐藤: 当初、抑えにする予定だった外国人が不調で、代役を誰にするか相談しながらのシーズンでした。ジェフの活躍も大きかったのですが、その前を投げた安藤優也が素晴らしかった。あの年のブルペンでのコントロールは今まで指導したピッチャーの中で一番良かった。ボール1個分の出し入れが完璧にできていましたからね。2003年のピッチャーのMVPは安藤だと僕は思っています。

二宮: 佐藤コーチが考える抑えの条件は?
佐藤: 三振をとれるボールが最低1個あることですね。やはりピンチの場面でマウンドに上がるとなると、ある程度、バットに当てさせないボールが求められる。ただ、イニングの頭からいくなら、特段、ボールが速くなくてもムダな四死球を出さなければ何とか抑えられる。そうであれば低めにボールを集められるピッチャーでもいい。昔の抑えに比べると、イニングをまだいで投げることも少ないし、だいぶ楽になりましたよ。

二宮: 楽天のピッチャーを眺めてみると、もっともクローザーの適性があるのは田中将大投手ではないでしょうか。ピンチになっても動じないどころか、逆にスイッチが入って、いいピッチングをする。彼を抑えに回す考えは?
佐藤: それはないね。優勝争いする状況になれば、話は別だけど。個人的な意見を言わせてもらえれば、7回くらいまでゲームを作ってくれる先発ピッチャーがちゃんと揃えば、抑えは誰でもいい。経験を積んで自信がつけば、それなりに抑えられるようになりますから。
 日本ハム時代、武田勝を中継ぎから先発に転向させたのも、まずはローテーション投手を揃えるためです。「ブルペンに置いておきたい」というコーチもいましたが、「いつ勝てるかわからないのに、いいピッチャーをブルペンに置いておいても宝の持ち腐れになる」と主張しました。もちろん、いつもリードして終盤を迎えられるなら話は別ですよ。終盤の3イニングが大事だと言う人もいるけど、中盤までの6イニングまで先発がしっかり抑えてくれたら、充分、勝つ確率は高くなる。だから、まず6回を3失点以内で頑張ってくれるピッチャーを探すほうが僕にとっては優先事項なんです。

二宮: ボールひとつひとつをとっても、田中投手の場合は三振を奪える球種がいくつもある。その点も抑えの条件に当てはまると思いますが……。
佐藤: コントロールもいいからね。ブルペンで投球していても本当にコントロールが狂わない。チームの中ではピカイチですよ。むしろ岩隈のほうが制球はアバウト。もし抑えをやったら佐々木主浩以上のクローザーになるでしょう。でも、彼を抑えにすると、チームが勝てないですから(苦笑)。

二宮: それでも昨年の優勝チームであるソフトバンクがSBMという勝利の方程式をつくったように、勝ちパターンのリリーフ陣は重要です。せっかく先発が試合をつくっていい試合をしても、最後にひっくり返されたらもったいない。チームの士気にも関わります。
佐藤: 確かにソフトバンクと試合をする時は6回までが勝負ですからね。当然、こういった逃げ切りパターンをつくることは大切でしょう。でも長いシーズン、逃げ切るばかりじゃない。負けていても粘って逆転するゲームをしないと優勝はできませんから。となると先発や勝ちパターンのピッチャーだけでなく、ビハインドの場面で出てくる中継ぎも重要になる。結局は投手陣全体の底上げが必要なんです。その部分は昨年よりも全体のレべルアップはできました。投手力でいえば、楽天も他球団には負けてはいません。若いピッチャーが育ってくれば戦えると感じています。

<現在発売中の『小説宝石』2011年6月号(光文社)では、佐藤コーチの投手育成術について詳しいインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>