17日から交流戦が開幕しました。今年で7年目を迎えましたが、過去6年間はパ・リーグの球団が優勝しています。昨年はなんと1位から6位をパ・リーグが占めるという結果となりました。24日現在、福岡ソフトバンクが1位、0ゲーム差で中日が追っているという展開を見せています。果たして今年はどんな結果となるのでしょうか。そして、この交流戦での戦いが、各球団にどんな影響を及ぼすのかにも注目したいですね。
 さて、開幕して1カ月以上が経ちました。飛躍的な成長ぶりが話題となっているのが、中田翔選手(北海道日本ハム)です。開幕スタメン入りを果たしたものの、なかなか結果が出ずに苦しいスタートとなりましたが、ここにきてようやく実力を発揮し始めてきましたね。現在、打率2割8分2厘、27打点、6本塁打。ダルビッシュ有投手が先発の時には3試合連続で決勝打を放つなど、勝負強さも光っています。今季はどんな成績を残すのか、今から非常に楽しみです。

 その中田同様、今季の活躍が期待されるのが、唐川侑己投手(千葉ロッテ)です。唐川投手はもともとテンポがいいピッチャーですが、今年はそのテンポがより速くなっています。ですから、バックは守りやすいでしょう。逆に打者とすれば、準備をする時間が取れず、しかも唐川はコントロールがいいですから、すぐに追い込まれてしまいます。ですから攻略するのに苦戦していることでしょう。それが4勝1敗、防御率1.36という好成績につながっているのです。

 昨季までの彼は、試合の終盤になると投げ急ぐことが少なくありませんでした。前へ、前へという意識が強すぎてしまい、逆にバランスが崩れていたのです。そうすると、初速は速くても、終速、つまり打者の手元でキレが出せなくなってしまいます。しかし、今シーズンの彼はそれが解消されています。理由は身体的なレベルアップにあります。スタミナがつき、下半身がしっかりとしてきたのです。投球モーションに入る際の左足を上げて右足一本で立った時の姿が、非常にどっしりとしています。これがフォームの崩れを解消し、リリースポイントを安定させているのです。

 また、縦のカーブの使い方がうまくなりましたね。もともとストレートと同じ腕の振りで、曲がりの大きいカーブには打者も苦戦していました。それに加えて、今季はカウントを取りにいくのと、空振りを取りにいくのと、自在に投げ分けられるようになっているのです。一段上のレベルでピッチングができるようになっているんですね。

 しかし、彼が本当に成長できたかどうかが試されるのはこれからです。夏に向けてどんどん蒸し暑さが増し、疲労がたまりやすくなります。そうすると、低めに抑えきれなくなり、ボールが浮いてくる。その甘いボールを狙われて長打を打たれる……というのが、これまでの唐川投手のパターンでした。そうならないためには、体のケアをしっかりとすること。そして、トレーニングを疎かにしないことです。

 暑くなると、少し動いただけでもすぐに汗をかくために体が動いていると思い、いつもよりもトレーニングの量を少なくする選手がいます。しかし、重要なのは体の芯から汗をかくこと。そのためには、やはりしっかりと体を動かさなければいけません。暑い時期にトレーニングの量を減らすのではなく、逆にきちんとトレーニングをすることこそが、スタミナを維持することにつながるのです。唐川投手も、しっかりとトレーニングをして暑い夏を乗り越えてほしいですね。

 さて、逆に今季、未だに調子が上がっていないのが昨シーズンの沢村賞投手、前田健太投手です。前回でも述べましたが、おそらく新しく導入された低反発の統一球になじむのに時間がかかったピッチャーの一人ではないかと思います。もともとボールのキレとコントロールで勝負するタイプの前田投手ですが、昨季よりも真っ直ぐがボール1個分高いのです。そのために打者の視線を上下動させられず、カーブを簡単に見逃されてしまう。そして、真っ直ぐを狙い打ちされるというパターンが多いのが今季の前田投手です。

 統一球は従来のボールよりも滑りやすいと言われています。実際、そうなのですが、ピッチャーがあまり滑るという意識をもってしまうと、それをおさえようと自然と指先に力が入ってしまいます。本来はリリースの瞬間だけ力をグッと入れるべきところを、指先に力が入るので、リリースが早くなり、ポイントが高くなる。そのためにボールが高めにいってしまうのです。もちろん、前田投手もそのことに早い段階で気づいていたはずです。そして、今度は修正しようとボールを低めにコントロールしようという意識することで、さらに指先に力が入ってしまう。このような悪循環に陥り、これまでつかんでいた感覚にズレが生じていたのだと思います。

 22日の千葉ロッテ戦では勝ち投手にはならなかったものの、7回5安打1失点、10奪三振と、今季一番のピッチングだったと思います。特にカットボールはキレがありました。左打者にとってはあのカットボールを外角高めに投げられると、嫌でしょうね。しかし、やはりまだボールが高く、昨季のような低めへのボールにまだキレが戻っていません。そのために、バッターボックスの打者が、昨季ほど嫌がっているような感じを受けませんでした。広島は24日現在、首位の東京ヤクルと0.5ゲーム差の2位と、非常にチーム状態がいい。そのためにエースの不調はあまり目立ってはいませんが、このまま低めへのボールでストライクが取れないようですと、今季の前田投手は厳しいでしょう。

 しかし、交流戦は対戦経験の少ないパ・リーグの打者との勝負になりますから、前田投手にとっては勝負しやすいといえます。勝ち星がつけば、それが自信となり、感覚がよくなっていくもの。特にパ・リーグの打者はどんどん振ってくる選手が多いので、アレコレ考えるというよりは、力と力で真っ向からの勝負となります。今の前田投手にとってはその方が、力を発揮しやすいかもしれません。ぜひ、この交流戦を浮上のきっかけにしてほしいですね。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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