柔道の体重無差別日本一を決める全日本選手権が29日、東京・日本武道館で行われた。決勝は昨年と同じ顔合わせとなり、鈴木桂治(平成管財)が昨年史上最年少優勝した石井慧(国士大)に優勢勝ちし、2年ぶり3度目の優勝を果たした。3年ぶりの出場となった井上康生(綜合警備保障)は準決勝で石井に惜しくも敗れた。棟田康幸(警視庁)は準々決勝で敗退、選抜体重別100キロ超級を制した高井洋平(旭化成)は準決勝で鈴木に敗れた。
(写真:2年ぶり3度目の優勝を果たした鈴木)
 日本一強い男は、世界一強い男
 
 鈴木が2年ぶり3度目の日本一に輝いた。
 強豪が揃う厳しいブロックだった。穴井隆将(天理大職員)との3回戦は、終盤、穴井の攻撃に押される場面もあり、2−1の辛勝となった。「負けていた試合だと思う。旗が僕に上がってくれたので1回負けたつもりで、切り替えた」。
 選抜体重別選手権の100キロ超級を制した後輩・高井との準々決勝は、序盤は高井の内またや大内刈りでヒヤリとする場面もあったが、得意の足技で有効2つを奪う完勝。準決勝では、準々決勝で棟田康幸(警視庁)を破り勢いに乗る片渕慎弥(日本中央競馬会)に開始28秒、小内刈りで一本勝ちし、決勝進出を決めた。

 そして鈴木vs石井という昨年と同じ顔合わせとなった決勝戦、終始、先に攻撃を仕掛けていった鈴木だが「相手のスキがなく、その中でどう攻めるか考えていた」。残り1分、寝技の攻防の中であと一歩で抑え込みという場面もあったが、寝技を得意とする石井はこれをしのぐ。しかし、石井は防戦一方となり、旗は3本とも鈴木に上がった。
 昨年の決勝戦は、終盤まで優勢に試合を進めながらも、残り6秒で石井に有効を奪われ、連覇が止まった。試合後は「守りに入っていたのかもしれない。勝負をする者として一番やってはいけない負け方をしてしまった」と悔しさをにじませていた。
「昨年(全日本選手権)の自分は別人だったと思っている。今年から新たなスタートと思っていた。昨年の雪辱、という気持ちもなかった。試合への集中力、勝つという気持ち、すべてにおいて昨年とは全然違っていた。世界選手権や五輪で優勝したが、今日は国士舘大の先輩という意地が勝たせてくれた。勝つためにやってきた。結果が出てよかった」
 世界選手権、五輪を制し、柔道へのモチベーションが保てず苦しんだ時期を経て、強い鈴木が戻ってきた。
「自分の強さがどれくらいなのか不安もあった。去年1年が無駄じゃなかったと今は思える。勝ててよかった。世界選手権でもう一度世界チャンピオンになることは自分の使命だと思っている。日本で一番強い男が、世界で一番強くないことは許されない。世界一になることは気持ちがいいことなので、金メダルをまた1つ増やしたい」
 頼もしい日本のエースは、晴れやかな笑顔で世界一の座を誓った。

鈴木桂治選手のコメント
「決勝には、(石井慧と井上康生の)どちらが上がってもいいように戦いのスタイルを描いていた。決勝前は緊張した。投げて勝ちたかったが、旗が3本上がってよかった。昨年(全日本選手権)の自分は別人だったと思っている。今年から新たなスタートと思っていた。昨年の雪辱、という気持ちもなかった。試合への集中力、勝つという気持ち、すべてにおいて昨年とは全然違っていた。
(井上)康生さんとやりたい気持ちはあったが、これからもチャンスはあると思う。
 世界選手権でもう一度世界チャンピオンになることは自分の使命だと思っている。日本で一番強い男が、世界で一番強くないことは許されないこと。世界一になることは気持ちがいいことなので、世界選手権で金メダルをまた1つ獲やしたい」

石井慧選手のコメント
「(決勝を振り返って)過去の自分に申し訳ないような自信のない柔道をしてしまった。相手のスキをつく寝技を練習してきたのに、逆にスキを突かれてしまった。桂治先輩の方が、柔道への気持ちが入っていたと思う。普段の生活から自分に甘さがあった。(準決勝で井上に2−1で勝ったことについて)怪我で練習できない間、ビデオで組み手や内またに入るタイミングなど研究した成果が出たと思う」

井上康生選手のコメント
「自分の柔道ができなかった。負けは負け。(準決勝の石井戦を振り返って)負けたので何も言うことはないが、もっと良い展開になったのではないかと思う。気持ちをもっと前面に出した良い試合がしたかった。まだまだ勝負できると思っているが、このままでは全くダメだと思う。技術的なことでも精神的なことでも課題がたくさん残った」