8日、2018FIFAワールドカップロシア大会のアジア2次予選(兼アジアカップ2019予選)がオマーン・マスカットで行われ、グループEの日本代表(FIFAランキング55位)はシリア代表(同123位)に3-0で勝利した。日本は押し気味に進めながら、前半は得点を奪えなかった。それでも後半10分にFW本田圭佑(ACミラン)のPKで先制すると、25分にはFW岡崎慎司(レスター・シティ)が追加点を挙げる。終了間際にも1点を加えた日本は、シリアに得点を許すことなく、完封勝ちを収めた。通算成績は3勝1分けの勝ち点10。同9のシリアを抜き去り、グループEのトップに立った。

 

 岡崎、PK獲得など2得点に絡む活躍(マスカット)

日本代表 3−0 シリア代表

【得点】

[日本] 本田圭佑(55分)、岡崎慎司(70分)、宇佐美貴史(88分)

 

「この勝利を探しにきた」

 日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、中東の地で手に入れた勝ち点3という収穫に胸を張った。

 

 指揮官が「とにかく勝つ。勝利の文化を植え付けたい」と語っていた一戦は、勝ち点差2のシリアとのグループEの首位攻防戦だ。日本は6ゴールと大勝したカンボジア戦からは右サイドバックの酒井宏樹(ハノーファー96)を酒井高徳(ハンブルガーSV)に、センターバックの森重真人(FC東京)を槙野智章(浦和レッズ)の2人が入れ替わった。

 

 気温30度を超える灼熱のピッチ。気力と体力を奪うグラウンドコンディションの中、FW原口元気(ヘルタ・ベルリン)が日本を活気付ける。まずは5分、左サイドでボールを持つと得意のカットインからのミドルシュート。枠は捉えられなかったものの、前節のゴールラッシュを影で演出したアタッカーはアグレッシブなプレーでチームを牽引した。原口は7分には本田のスルーパスに反応。シリアDFの裏を完全に抜け出したが、ここは線審のフラッグが上がり、惜しくもオフサイドの判定となった。

 

 その後も本田、岡崎、MF香川真司(ボルシア・ドルトムント)を中心に攻撃を展開するが、得点を奪えぬまま、時間だけが過ぎていった。35分と41分にはDFラインの裏を狙われ、あわやというシーンをつくられたが、ここはシリアのシュート精度の低さに助けられた。

 

 日本はチャンスを作りながらも決定機を生かせない。スコアレスで試合を折り返した。嫌なムードが漂ってもおかしくはなかったが、選手たちは決して悲観していなかった。「前半はタフな試合だった。ゼロで抑えたことが後半につながった」と岡崎。その言葉通り、ドイツで2年連続2桁得点という実績を引っ提げ、今季からイングランドに乗り込んでいるストライカーが後半に大きな仕事をやってのける。

 

 9分、岡崎はMF長谷部誠(フライブルグ)の縦パスに抜け出すと、ペナルティエリア内でやや減速し、追いすがるシリアDF側に身体を入れる。岡崎を止めようと必死に伸ばしたシリアDFの足が、日本の背番号9を宙に舞わせた。主審は線審に確認すると笛を吹き、ペナルティスポットを指差した。

 

 ダイブではないが、PKをもらう意識は多分に感じさせた岡崎の狡猾さ。ハリルホジッチ監督が口にしていた「ずる賢くやり続けろとは言わないが、ペナルティエリアの中でファウルをもらうインテリジェンスが必要」を実践したかたちとなった。

 

 献身的なストライカーがもたらした先制の絶好機にボールをセットするのは司令塔の本田だ。日本の大黒柱は、前へ詰めてプレッシャーをかけようとするGKを見向きもせず、冷静にゴール左へ決めた。淡々とセンターサークルに引き返す本田を中心に歓喜の青い輪ができあがる。

 

 待望の先制点が生まれ、このまま一気に畳みかけたい日本。指揮官は21分に交代カードを切る。原口に代えて、宇佐美貴史(ガンバ大阪)を投入した。この交代策が見事にハマった。テクニックに秀でた宇佐美は本田、香川らを中心とした日本の攻撃にアクセントを加える。24分、岡崎に浮き球のパスを送り、GKと1対1のチャンスを演出した。ここはシリアのGKに身を挺してセーブされたが、宇佐美の投入後、日本はスイッチが入ったようにいい流れに変わった。

 

 すると宇佐美はその1分後、左サイドへ大きく展開。ボールを受けた香川が左サイドを突破する。一瞬の加速で1人を振り切り、ペナルティエリア内に侵入した。スライディングをしてきたシリアDFをあざ笑うかのように股下を抜くグラウンダーの速いパスを送る。背番号10のラストパスを信じてニアサイドに走り込んだのは岡崎だ。右足アウトサイドで合わせ、ゴールネットを揺らす。「半分は真司の得点」とパスの出し手を称えたが、ゴールの匂いを嗅ぎつけた岡崎の動き出しの質も見逃せない。日本代表現役最多得点を誇るストライカーの活躍でリードを広げた。

 

 その後も宇佐美、本田のコンビネーションで幾度もチャンスをつくる。そして試合を決める1点を叩き出したのは、ここまでチャンスメイカーに徹していた宇佐美だ。ここ数年は点取り屋としての才覚を覚醒させつつあるファンタジスタがゴールを決めた。43分、途中出場の清武弘嗣(ハノーファー96)のスルーパスに抜け出した本田が、相手を引き付けるとヒールで宇佐美にパスを送る。ペナルティエリア内に走り込み、ボールを受けた宇佐美。あとはシュートをゴールに流し込むだけだった。

 

 本田、岡崎、香川、宇佐美と役者が得点に絡んだ。ハリルホジッチ監督は「全員が決めるべき選手。全員でとった得点だ」と語気を強める。「我々の強みはチームのコレクティブであり、野心も持っている」。何度かピンチを招くなど、決して完璧な試合内容とは言えない。それでも実質アウェーの地で完封勝利。勝ち点3を掴みとるというタスクを遂行してみせた。これで日本は勝ち点9のシリアを抜き、勝ち点10でグループEのトップに浮上。最終予選進出へ大きく近付いた。

 

(文/杉浦泰介)