10日、プロ野球のクライマックスシリーズ(CS)が開幕する。セ・リーグは14年ぶりの優勝を果たした東京ヤクルトへの挑戦権をかけて、リーグ2位の巨人と同3位の阪神が対戦する。一方のパ・リーグは、福岡ソフトバンクがぶっち切りの優勝でリーグ連覇を成し遂げた。2位の北海道日本ハムと3位の千葉ロッテが、大差をつけられたシーズンの雪辱をCSで狙う。

 

 巨人と阪神の伝統の一戦は、今季の対戦成績で巨人が阪神を16勝9敗と大きく勝ち越している。本拠地・東京ドームでの試合に限れば、11勝2敗。記録的には巨人が有利に感じられるが、昨年の“悲劇”の記憶が巨人ファンの脳裏には植え付けられているだろう。

 

 打線の火付け役がキーマン

 

 昨年のCSファイナルステージで対戦した両チームは、レギュラーシーズン1位の巨人が、4戦4敗(アドバンテージの1勝を除く)と阪神に完敗を喫した。リーグ3連覇を果たしながら、日本シリーズに進出することができなかった。巨人は4戦合計で得点圏打率.173と、チャンスでの決定力不足が浮き彫りになった。巡ってきた好機をいかに生かせるかが命運を分ける。

 

 巨人打線では1~3番に注目だ。3番・坂本勇人はチームトップの得点圏打率.323を誇る。彼の勝負強さをいかすためにも、得点圏に走者を進めた状態で打席を回したい。2番・片岡治大は2年連続20盗塁以上と塁に出れば、足で相手バッテリーをかき回せる。トップバッターとしても機能する力は十分にあるが、犠打成功率95%と確実に走者を進塁させる技術も併せ持つ。それだけに1番・立岡宗一郎にかかる期待は大きい。プロ入り7年目の立岡は、今季67試合を1番でスタメン出場し、8月には40安打を放ち、ようやくレギュラーの座を掴み取った。規定打席には足りなかったものの、打率を3割に乗せた。遅咲きの核弾頭の出来が勝利の鍵になると言っても過言ではない。

 

 一方、阪神は、レギュラーシーズン終盤に右太もも裏を痛めていた福留孝介が間に合った。福留は「CS男」の異名をもつほど短期決戦に強い。昨季はCS全6試合で安打を放ち、打率3割3分3厘、2本塁打、3打点の活躍みせた。第1戦の先発が濃厚視される巨人のエース菅野智之との今季の対戦成績は、15打数9安打と6割も打っている。今年もCS男のパワーが発揮されれば、猛虎打線に火が付くはずだ。

 

 阪神の不安要素・守護神不在

 

 攻撃力はほぼ互角だが、投手力は巨人の方が断然、優位と見る。

 

 阪神にとって最大の不安要素は、2年連続セーブ王に輝いた呉昇桓の離脱である。代役の抑えには、高宮和也と福原忍の名前が挙がっているが、ベテランコンビにこの大きな穴を埋められるだろうか。絶対的な守護神がいないとなると、9回からの逆算式も成り立たない。慎重な継投リレーが重要になってくると同時に先発陣の奮起が欠かせない。初戦の先発が予想される藤浪は、9月28日の巨人戦で完封勝利を挙げており、良いイメージを持って、巨人打線に向かってくるだろう。だが2戦目を任される可能性が高いランディ・メッセンジャーは東京ドームで防御率4.81と相性の悪さが気がかりだ。

 

 対する巨人は今季のローテーションを守り抜いた菅野智之、アーロン・ポレダ、マイルズ・マイコラスと先発は3枚揃っている。菅野はリーグ2位の防御率1.91と安定感は抜群だ。対阪神戦ではポレダが5勝2敗、マイコラスが5戦負けなし(3勝)と両外国人が“虎キラー”ぶりを存分に発揮した。今季リーグ最高勝率を記録したマイコラスは、東京ドームで7勝1敗と、ホームで無類の強さを誇る。リリーフも抑えに澤村拓一がどっしり構えるなど、ブルペン陣も巨人に分があると言えよう。

 

 果たして、巨人は去年の雪辱を晴らすことができるのか。それとも、阪神が2年連続で下剋上を成し遂げるのか――。

 

(文/安部晴奈)

 

 今季で9度目を迎えるCSで、短期決戦に強い日本ハムとロッテが対戦する。レギュラーシーズン2位の日本ハムは、2年連続6度目の出場で18勝12敗と6割の勝率を誇る。対する3位のロッテは、2年ぶりにCSの舞台へと帰ってきた。これまでファーストステージには3度出場し、いずれもファイナルステージへとコマを進めている。今季の対戦成績は、日本ハムが13勝12敗とわずかに勝ち越し。シーズン同様、競った展開が予想される。

 

 最多勝右腕の起用法に注目

 

 CSの“開幕投手”を務めるのは日本ハムが大谷翔平、ロッテが石川歩と発表された。昨季は10本塁打&10勝と“二刀流”プレーヤーとして、前人未踏の記録を達成した大谷だが、今季は投手という1本の刀の斬れ味がことさら鋭い。22試合に登板し、15勝5敗、防御率2.24。最多勝、最多勝率、最優秀防御率と3冠を手にした。大谷は160キロを超える剛速球に加え、スライダーやフォークでバッタバッタと打者にバットで空を斬らせ、奪三振の山を築いた。栗山英樹監督が初戦に起用したことからも信頼は厚い。覚醒しつつある怪物は、球界のエースへの道を突き進む。

 

 また大谷には二刀流プレーヤーとして、登板後の起用法も気になるところである。“中0日”でのベンチ入りするかは微妙だが、3戦目があればベンチ入りは間違いない。今季は打率.202、5本塁打、17打点とバッティングでは振るわなかったものの、代打で2本塁打放つなど存在感は示した。試合終盤に出てきて相手に一太刀を入れる。その準備はできているはずだ。

 

 ロッテの最多勝右腕は、涌井秀章。埼玉西武からロッテに移籍して2年目、15勝9敗で6年ぶり3度目のタイトルを獲得して復活を印象付けた。だが最多勝を手にするため、今月6日の東北楽天戦では延長10回137球を投げた。西武時代から元々、球数を放るタイプとはいえ、伊東勤監督も中3日で初戦を任せるようなことはしなかった。涌井には2戦目、3戦目の先発ないし、中継ぎでのスクランブル登板もあり得る。チームメイトが最多勝のタイトルをアシストしてくれたのならば、涌井はピッチングでその恩に応えなければいけない。

 

 勝敗占う“シリーズ男”

 

 短期決戦において、鍵を握るのが“シリーズ男”の存在である。

 

 日本ハムで爆発が期待されるのが、主砲・中田翔だ。今季はキャリアハイの30本塁打、102打点をマークした。26歳のスラッガーは、9日に発表された「WBSC世界野球プレミア12」の侍ジャパンでも堂々の4番候補である。中田は今季のロッテ戦で打率.317、8本塁打、20打点と大当たり。昨季のCSでは4戦連発を含む5本のアーチを描いた。2009、11、12、14年に続く自身5度目となるCSの舞台で、当然担うは主役一本だ。

 

 日本ハムが侍ジャパンに12球団最多タイの4人が選出された一方で、12球団で唯一ゼロだったのがロッテである。とはいえ“お祭り男”は大勢いる。日本シリーズMVPを2度受賞した今江敏晃、ルーキーながら5年前の日本一に貢献した清田育宏は、短期決戦で一際輝く“何か”を持っている。そしてロッテには、現役時代は14度のリーグ優勝と7度の日本一を経験した伊東監督もいる。04年も西武の監督で日本一に輝くなど、ある意味、“秋の戦い方”を一番熟知している者と言えるだろう。伊東監督が振るうタクトから新たな“シリーズ男”が生まれるかもしれない。

 

 北の大地から福岡へ――。その航空チケットを手にするのはどちらか。決戦は18時からスタートする。

 

(文/杉浦泰介)