今回ばかりは日本サッカー協会に同情する。

 W杯ブラジル大会後、選手の中から「過酷な状況での真剣勝負が足りない」という声があがった。そうした意見に耳を傾けたがゆえに、昨年シンガポールでのブラジル戦や今回のイラン戦が実現したのだとわたしは感じている。現状を打破すべく、協会は動いたのだ。

 

 それで、これか。

 

 10万人収容とも言われるアザディ・スタジアムに集まったのは、2万人にも満たなかった。W杯予選などではしばしば暴徒化し、会場の備品に火をつけて投げつけることもあるテヘランのファンは、ずいぶんとのどかに試合を観戦していた。残念ながら、協会が期待したであろう「完全敵地」なムードとはほど遠く、一目見ただけで「ああ、親善試合だな」とわかる空気があった。

 

 だが、それ以上に、失望させられたのは、日本の選手たちの姿勢だった。

 

 真剣勝負とは、その名の通り、負けた側が命を落とすに等しいほどのダメージを受ける勝負である。だが、真剣勝負を熱望していたはずの日本の選手たちの中には、明らかにW杯予選とは異なるテンションで試合に臨んでいる者がいた。少なくとも、何が何でも勝たなければならない、ここで負けたらすべてが終わる……といった気迫を漲らせていた選手は皆無だった。

 

 こんな試合から、本番へ向けての教訓などつかめるはずがないではないか。

 

 海外でプレーしている選手は知らないのかもしれないが、15年10月の日本人は、南アフリカを倒すラグビー日本代表を見てしまっている。体格のハンデを言い訳とせず、世界中の人々を感動させた戦いぶりを知ってしまっている。

 

 サッカーに比べ、ラグビーのルールや戦術に精通している人は少ない。それでも、素晴らしく勇敢で冒険心に満ちた戦いぶりと、ラグビーという競技をメジャーにしたいという真摯な思いは、確実に日本人の心をとらえた。ラグビーって面白い……そう思う人たちは、爆発的に増加した。

 

 翻って、テヘランで戦ったサッカーの日本代表はどうだったか。志は、覚悟は、Jリーグをもっと盛り上げなければという危機感は、どれほどあっただろうか。

 

 ラグビーもいいけど、やっぱりサッカーが面白い――そう思ってくれる人を増やそうと考えていた選手が、どれだけいただろうか。

 

 敵地でイランに追いついたことを評価する人もいるだろうし、わたしも無意味だとは思わない。

 

 けれども、この退屈で凡庸な試合から得た収穫が、W杯や日本サッカーの未来に役立つものだとは、まったくもって、思えない。

 

 協会のお膳立てを、選手たちがドブに捨てたのである。

 

<この原稿は15年10月15日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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