西川周作と言えば、笑顔の人である。

 

 練習用のレガースに、笑う門には福来たる、を意味する「笑福来門」の文字を入れているのは有名な話。笑顔をつくることで味方に落ち着きを与えようと意識してきた。のぞかせる白い歯が、サンフレッチェ広島でも浦和レッズでも“心の支え”ともなっている。もちろん、日本代表でも――。

 

 しかし、今年は「怖い顔」が多いことに気づく。

 所属先が決まらず、代表選出を見送られている川島永嗣に代わり、代表でも9月のロシアW杯アジア地区予選2連戦(対カンボジア、アフガニスタン)から正GKに座るようになった。自陣に引きこもる相手に対して守備機会は少なくとも、厳しい顔つきで周囲に対しても集中を求めるような声を出していた。

 

 アフガニスタン戦の舞台となったイラン・テヘランから帰国後、笑顔が消えたことを西川に尋ねた。

 そのきっかけとなったのが、8月に中国で開催された東アジアカップだという。

 

 西川は語る。

「(ヴァイッド・)ハリルホジッチ監督から『常に大きな声を、もっともっと出していけ』と言われていました。自分のなかでも何か変わらなきゃいけないと思っていて、味方に怒鳴ったりして厳しく要求することで、自分自身も凄く集中できるんだな、と東アジアカップで強く感じることができたんです。永嗣さんが常に声を出し続けているのも、あれは自分を集中させる意味もあったんだな、と。でも(厳しい顔つきであっても)気持ちとしては楽しもうとしていることに変わりはないですよ」

 

 周りに厳しく要求することで、逆に己の集中力を高めていく。

 国内組で臨んだ東アジアカップ初戦の北朝鮮戦では、残り15分を切ってから、2点を失い、逆転負けを喫した。続く韓国戦はPKで先制されながら、粘り強く守ったものの、引き分けだった。この大会は1勝もできずに最下位という結果に終わった。西川自身も悔しい大会になったものの、一方で得たものも大きかったようだ。

 

 10月、オマーンで行なわれたシリア戦も無失点で切り抜けて、3試合続けての完封勝利に貢献した。9月のカンボジア、カザフスタン戦とは違ってピンチを招く場面もあったなかで、相手の際どいFKを防ぐなど落ち着いて対処している。

 続く親善試合のアウェー、イラン戦ではPKを止めながらも、弾いたこぼれ球を押し込まれて悔しい失点を喫した。感情を押し殺すことなく、ピッチをバンバンと何度も叩いたのがとても印象的だった。

 

 西川があれだけ悔しがっている。

 そのシーンを目に入れれば、チームメイトも気を引き締めたに違いなかった。

 しかしながら、厳しい顔つき一辺倒ではない。チームを落ち着かせるときはいつもの柔らかい表情を見せる。

試合状況を見極めながら集中を求めるところと落ち着かせるところを「うまく使い分けていければいい」と言う。

 

 かつて西川から聞いた言葉がある。

「僕はチームでもそうですけど、自分がゲームメーカーだという意識を持ってやっています。今、攻撃を早くしていいときか、それとも一端、落ち着かせたほうがいいときか。それはGKのところでコントロールできる部分もあるし、それが前の選手に向けたメッセージにもなると思うんです」

 

 武器であるメッセージ付きのパスに加えて、表情でも味方をコントロールできる。

 

 川島の「ドヤ顔」に負けない「自在顔」。

 日本代表正GKの風格が、徐々に備わりつつある。


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