これほど一方的な展開になるとは思っていなかった。

 10月31日、ヤマザキナビスコカップ決勝。鹿島アントラーズが前年覇者のガンバ大阪を3-0と圧倒して3年ぶりの優勝を果たした。

 MVPには36歳のベテラン小笠原満男が選ばれた。得点は挙げていないものの、文句なしの選出だと言えた。

 

 キックオフの瞬間から、気迫が違った。

 

 体を激しくぶつけてボールを奪い取り、攻撃につなげていく。積極果敢に前線のスペースに飛び込んでいく。小笠原のテンションがチームに波及して、序盤からシュートの雨を降らせていった。結果は3-0ながら、東口順昭のビッグセーブがなければ、もっと点差が開いていただろう。ACLの影響で過密日程にあったG大阪はコンディションの悪さが目立ったとはいえ、試合巧者の3冠王者に対して圧倒した鹿島が素晴らしかった。試合開始から先頭に立ってプレー強度を全開にした小笠原がその立役者だった。

 

 試合前のミーティングで彼はチームメイトにこうハッパをかけたという。

「勝つと負けるのでは違うぞ」

 今回のナビスコカップを含めて鹿島が獲得したタイトル17個のうち14個を経験している小笠原の言葉に、チームメイトは奮起した。

 

 この決勝をスタンドで眺めていくうちに、頭に浮かんできた言葉があった。

 ヘッドスタート――。

 

 これはラグビーW杯で旋風を起こしたエディージャパンが取り組んでいたことと言えば、お分かりだろうか。彼らは早朝5時、6時から練習をスタートさせ、どのチームよりも先に始動して多くの練習を行なってきた。そのことをエディーは「ヘッドスタート」と呼んだ。

 

「俺たちはどのチームよりも一番先に、多くの量をやっているんだ」という自信を得る効果ばかりでなく、ゲームのなかで先手を取っていくという大きな狙いがあった。メンタル、フィジカルの準備のみならず、「積極性」という要素も隠されていた。

 

 大金星を挙げた南アフリカ戦もいいスタートを切り、五郎丸歩のPGで先制した。前半を10-12で折り返したものの、決して後手に回らなかったことが奇跡の勝利につながったのだ。

 

 サッカーの世界では朝6時から練習する「ヘッドスタート」はない。しかしながら、いい準備をしてきたからこそ、鹿島は先手を取ってそのまま勢いに乗ることができた。あそこまで飛ばしたら普通は多少、疲労が出てくるものだ。それでも彼らのペースは落ちるどころか、逆にG大阪のほうが疲れてしまっていたような印象を受けた。

 

 ヘッドスタート=先手を取る。

 これが言うまでもなくサッカーでも非常に大切な要素だ。過去、日本代表の戦いを振り返ってみても、積極的に先手を取りながら集中力を保ったゲームは、いい結果を得ている。

 

 たとえば、相手は格下であるが、2012年6月のブラジルW杯アジア地区最終予選のヨルダン戦(ホーム)は最初から飛ばして前半だけで4点を奪い、6-0で勝利している。フィジカル、メンタルにおいていい準備があったからこそ「ヘッドスタート」が可能になったのだろう。

 

 さてハリルジャパンである。

 10月の2次予選シリア戦、親善試合イラン戦ともに日本は前半、我慢の戦いを強いられた。暑さや中東独特の雰囲気に対し、徐々に慣れながらエンジンをかけていったのは試合巧者の側面もある。結果的にシリア戦は3点を奪って快勝し、イラン戦も後半に追いついてアウェーでドロー。試合の出来としては悪くない。ただ、2試合ともにミスが少なくなかったのもまた事実である。

 

 日本は先のブラジルW杯で、初戦のコートジボワールを相手に「ヘッドスタート」とはいかなかった。先制しながらも消極的な戦いになり、逆転負けを食らった。日本にとって次に活かさなければならない教訓になった。

 

 いいスタートを切り、そのうえで積極的、持続的に自分たちの力を出し切ってこそ「ヘッドスタート」は成立する。世界に勝っていくためには、大切な要素だと言える。

 

 アジア相手にやれなくて、世界相手にやれるわけがない。

 

 11月には年内最終戦となるシンガポール戦、カンボジア戦のアウェー2連戦が控えている。鹿島が見せた最初から最後まで圧倒して相手の心を折ってしまうような「ヘッドスタート」をぜひ見たいものである。


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