高温、デコボコのピッチ、独特の雰囲気……。
中東でのアウェーマッチは、いつも簡単にはいかない。10月8日、ハリルジャパンのロシアW杯2次予選シリア戦は政情不安のためにオマーン・マスカットでの開催となるが、厳しい戦いになることが予想される。

シリアは現在3戦全勝、勝ち点9でグループEのトップ。日本から見れば格下とはいえ、侮れない相手である。2011年のアジアカップでは2-1と勝利しているものの、両チームにカードが飛び交う荒れたゲームとなったことは記憶に新しい。

日本は近年、中東のアウェーで行なわれたW杯アジア地区予選で2度、負けている。そこから得た教訓とは何か――。

08年3月26日、岡田ジャパンは南アフリカW杯アジア3次予選、グループリーグ第2戦となるバーレーンとのアウェーマッチ(マナマ)に0-1で敗れている。最終予選前のラウンドで敗北を喫したのは実に19年ぶりという屈辱だった。
序盤から日本の出足は鈍く、シュート数は相手の13本を大きく下回る5本。終盤にクロスボールに対するクリアミスからゴールを奪われ、まったく“いいところなし”のゲームになってしまった。

のちに岡田武史監督から、こう聞いたことがある。
「自分が本当に腹をくくったチャレンジというものをしていなかった。メンバーも“これぐらいで大丈夫だろう”と自分のなかに甘さがあった。引き分けなら仕方がないと思っていたけど、まさか負けるなんて思ってもみなかった。負けたときは“冗談じゃねえよ”と思ったよ」

岡田監督は選手に対してではなく、己を責めていた。
病で退任したイビチャ・オシム監督からのバトンタッチを受けて、08年から指揮を執ったばかり。オシムジャパンのメンバーや戦術を踏襲しつつ、ゆるやかな移行を進めようと考えていた指揮官は「冗談じゃねえ」敗北により、ここから一気に“オレ流”に切り替えていくわけである。

前線からの激しいプレッシングを含めたチーム戦術を明確にし、メンバーも見直しを図った。翌月の代表候補合宿には香川真司や長友佑都や次世代で代表の主力となる選手たちが呼ばれ、長谷部誠と遠藤保仁の攻撃的なダブルボランチもこのときに生まれている。

指揮官は自分のなかに甘さを見て、それが屈辱の敗北につながったのだと解釈していた。いくら実力差があっても、それだけでは勝てないのがW杯予選であり、環境も不利に働く。勝利のためには一切の甘さを捨て切らなければならないのだと、あらためて教えてくれた試合になった。

直近の敗北は、13年3月26日(奇しくも敗れたバーレン戦と同日)、アンマンで行なわれたブラジルW杯アジア地区最終予選のヨルダン戦。これに勝利すればW杯出場が決まったのだが、1-2という結果に終わった。

当時のスタジアムが、異様な雰囲気だったことは強烈に覚えている。
スタンドは殺気立ち、「JORDAN!」の大合唱のもとで太鼓が打ち鳴らされる。威圧的な応援に加えて、波打ったデコボコのピッチが日本を苦しめた。
そんな逆境に立たされながらも日本は丁寧にパスワークを駆使しながらチャンスをつくっていく。しかし得点機をものにできず、前半アディショナルタイムにCKから先制点を許すと、後半にはカウンターから追加点を奪われた。日本はチャンスを決められず、逆にセットプレーとカウンターでやられてしまった。

アルベルト・ザッケローニ監督は試合後の会見でこう述べていた。
「日本が10回チャンスをつくり、相手が3回チャンスをつくるという試合展開なら、ウチが勝たなければならないゲームだった。このようにアウェーのチームが8、9、10回とチャンスをつくるのは稀だと思う」

日本の試合内容はむしろいいほうだった。だがチャンスに決め切れなかったことが、結果的には響いてしまった。これも「甘さ」と言ってしまえばそれまでだが、チャンスを確実に決めることが大切になる。
ただこのときに何より感じたのは失点の重さ。ヨルダンが先制するとスタンドはお祭り騒ぎになって威圧的な応援がより激しくなった。相手選手もその声に押されて、もう一度ネジが巻かれた。今回は失点しないリスクマネジメントが、90分間求められることになる。

シリア戦の舞台となるマスカットは10月といってもかなり暑い。
筆者も12年11月のブラジルW杯アジア地区最終予選で訪れたことがあるが、午後3時半のキックオフで気温は35度もあった。日の照り返しが強く、時折吹く風も生温かい感じがあった。このときも苦戦を強いられた。試合終盤に勝ち越しゴールを挙げて、何とかオマーンを振り切っている。

9月、イランで行なわれたアフガニスタン戦には快勝したものの、相手のレベルを考えれば今回のシリア戦こそが「中東アウェー」の厳しさを感じる試合となるはずだ。シリアのサポーターがどれほど集まるかは分からないが、今回も中東の独特とも言える環境に苦しめられることになるだろう。
果たして、ハリルジャパンに、どんなドラマが待ち受けているのだろうか。
◎バックナンバーはこちらから