世界ランキング3位(当時)の南アフリカ相手に34対32。ラグビーW杯史上最大の番狂わせの立役者となったのが日本代表FB五郎丸歩だ。

 

 

 2ゴール5PG1トライで計24得点。蹴る前の忍者のような仕草は、すっかりお馴染みとなった。まるでボールに魔法でもかけているかのようである。

 

 ルーティンは念が入っている。自著「不動の魂」(実業之日本社)から引く。

 

 (1)蹴る位置にしゃがみ、ゴールポストを見て、キックティーにボールを立てる。このとき、ボールを軽く回して、ボールの感触を確認する。

 

 (2)立ち上がり、後ろへ3歩下がり、左に2歩動く。立つのは、ボールの位置に対し、ゴールポストとの直線から左45度の角度で入っていける位置。

 

 (3)右腕を肘まで脇につけ、手のひらを前に押し出すように動かして、体重を前に動かすことを意識する。

 

 (4)体重移動を意識して蹴る。

 

 これだけのルーティンを完璧に遂行しても、100%成功する保証はどこにもない。

 

 大事なのは、どんな状況下でも最善を尽くすことである。やれることは全てやったとの思いが邪念や不安を取り除くのだろう。

 

 五郎丸は述べている。

「要は、100パーセントの準備を自分がしてきたかどうか。自分がやるべきことを100パーセントやったかどうか。それができていれば、入ろうが外れようが、どっちでもいい。外しても何とも思わない」(同前)

 

 ラグビーに限らず名選手は例外なく、独自のルーティンを持つ。

 

 メジャーリーグで活躍するイチローは、どんなシチュエーションでも打席に入る前に屈伸し、右肩の袖を左手で持ち、最後にバットを直角に立てるという動作を行った上で、相手投手と向かい合う。

 

 イチローがイチローであり続けるための儀式と言っても過言ではあるまい。

 

 考えてみれば、どんな好打者でもヒットを打てる確率は3回に1回である。逆に言えば3回に2回は失敗するのだ。

 

 失敗のたびに頭を抱えていては仕事にならない。すぐさま次へと気持ちを切り換えなければならない。

 

 問われるのは、たとえ失敗しても、気持ちを切り換えるに値する仕事をしてきたかどうかだ。反省だけならサルでもできる。

「小事が大事を生む」との格言もある。ルーティンが結果を生む、と言い換えることもできよう。五郎丸やイチローから学ぶべきことは多い。

 

<この原稿は2015年10月23日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

 


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