BCリーグ王者・新潟との独立リーグ・グランドチャンピオンシップは2連敗からの3連勝で初の日本一に輝くことができました。勝因は投手陣の頑張りでしょう。5戦までもつれることを計算し、調子のいい投手をどんどん継ぎこむ起用に選手たちが、よく応えてくれました。

 敵地で2連敗した後のチームの雰囲気は正直、暗かったです。帰りのバスはお通夜状態でした。しかし、地元に戻り、約1週間のインターバルが空いたことで気分の切り替えができたように思います。

 後がない第3戦は誰しも実績のある正田樹の先発を予想したことでしょう。しかし、加藤博人投手コーチと相談し、リーグチャンピオンシップでMVPを獲得して好調だった東風平光一を投げさせることに決めました。東風平は期待通り、6回無失点。完封リレーで1勝し、シリーズの流れを引き寄せられました。

 5試合すべてに登板し、最後は3連投で胴上げ投手になった阿部直晃のピッチングも見事でした。残念ながら、今回、NPBドラフトでの指名はありませんでしたが、来季以降に間違いなくプラスになったと感じています。

 打線も連敗した新潟での試合は決定打が出なかったものの、地元では効果的な1本が出ました。たとえば第4戦は同点の7回、1死二塁から中軸のザック・コルビーが決勝打。二塁走者の高田泰輔も彼しかできないような素晴らしい走塁をみせて生還し、1点差ゲームをモノにしました。

 第5戦も1-1のタイスコアからコルビーの二塁打を足がかりにしてキャッチャーの鶴田都貴が勝ち越しの2点タイムリー。鶴田はリード面でもピッチャーをよく引っ張り、成長をみせました。このようにチーム力が1戦1戦アップしたことが日本一に繋がったと考えています。

 ただ、チームとしては最高の成績を収めたにもかかわらず、ドラフト会議でひとりの指名も得られなかった点は悔しさが残りました。愛媛にも指名を受けた選手と遜色ない実力の持ち主がいただけに非常に残念です。

 他チームではありますが、NPB入りする選手で楽しみなのは、中日の育成2位・吉田嵩(徳島)でしょう。投げっぷりが良く、この1年で体が随分、大きくなりました。ボールのスピードはそこそこですが、まだ高卒1年ですから伸びしろがあります。成長度合では早期の支配下登録も可能なはずです。

 野手では千葉ロッテから育成指名された大木貴将(香川)は俊足で、おもしろい素材です。愛媛相手にもよく打ったようにバッティングもいいものを持っています。巨人の育成3位・松澤裕介(香川)もバットスイングがコンパクトで機動力も使える楽しみな選手です。

 巨人が来季から3軍を創設することになり、NPBに入るチャンスは広がりました。来季こそはドラフト指名される人材を何とか輩出したいものです。真っ先に期待できるのは、投手では先述した阿部、野手では19歳の高井悠生、内野手の四ツ谷良輔でしょう。

 阿部は今季、1年目で抑えを務めたようにメンタルが強く、中継ぎタイプです。球速を上げ、変化球のキレを磨けば十分、NPBで通用します。高井は一発もある鋭いスイングが魅力。今季は打率.261で3本塁打でしたから、確実性を増していくとスカウトの目に留まるとみています。四ツ谷は内野守備だけなら、今回、巨人から育成指名された増田大輝(徳島)と差はありません。課題はバッティング。増田のようにスイングに力強さが出てくることが上へ行くための条件です。

 ベテランの河原純一、チームを牽引した高田泰輔が引退を表明し、これからはトライアウトなどを通じて選手を確保することが重要な仕事です。是が非でもほしいのはサウスポー。若い左腕は戦力としても、NPB入りの観点からも貴重です。左バッターに対して厄介なピッチングをしてくれれば、それだけでスカウトは注目します。

 日本一という、ひとつの目標を達成し、次に目指すのはNPB選手を生み出すこと。来季は勝利とともに育成にも一層、力を注ぎ、いいオフを迎えたいものです。

 

 

弓岡敬二郎(ゆみおか・けいじろう)プロフィール>:愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1958年6月28日、兵庫県出身。東洋大姫路高、新日鐵広畑を経て、81年にドラフト3位で阪急(現オリックス)に入団。1年目からショートのレギュラーとなり、全試合出場を果たすと、84年には初の打率3割を記録してリーグ優勝に貢献。ベストナインとダイヤモンドグラブ賞を獲得する。87年にもゴールデングラブ賞に輝き、91年限りで引退。その後もオリックス一筋で内野守備走塁コーチ、2軍監督、2軍チーフコーチ、スカウトなどを歴任。13年をもって33年間在籍したチームを退団し、愛媛の監督に就任した。現役時代の通算成績は1152試合、807安打、打率.257、37本塁打、273打点、132盗塁、240犠打。

 

(このコーナーでは四国アイランドリーグplus各球団の監督・コーチが順番にチームの現状、期待の選手などを紹介します)


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