“ポスト遠藤”真の後継者は誰だ
ハリルジャパンは2015年の全スケジュールを終えた。
年内最終戦となったのがロシアW杯アジア地区2次予選のアウェー2連戦(対シンガポール、対カンボジア)だった。順当に連勝で勝ち点6を手にしたとはいえ、圧倒的な差を見せつけたわけではない。特に2試合目のカンボジア戦では前半を0-0で終えるなど、来年に弾みをつけるような形では締めくくれなかった。
シンガポール戦ではゴール前をがっちりと固めてくる相手に「幅」を使いながらチャンスをつくっていたのに対し、カンボジア戦の前半は「幅」を使えていなかった。揺さぶりをかけていくシーンが見られなかったが。後半に入って、“組み立て役”の柏木陽介が入ってから事態は変わる。横幅、縦幅を使うパスワークでようやくリズムに乗りはじめ、自陣に閉じこもる相手から何とか2点を奪い取ったわけである。
ゲームを読み、長短のパスを駆使しながら味方を動かせる司令塔――。
長くその座に君臨した遠藤保仁が代表を離れて以降、“ポスト遠藤”で決定的な存在は現れていない。“ポスト遠藤”の不在が、代表の武器であった華麗なパスワークを見せられていない一因となっているような気がしてならない。
背番号「7」の後継者として期待された柴崎岳は今回、代表から外れてしまった。柴崎の代わりに入ってきた柏木が活躍したとはいえ、ほぼ相手のプレッシャーのない状況でのプレーだったことを差し引かなければならない。これが10月の親善試合で戦ったイラン戦のレベルで輝きを放つことができれば一番手となるだろうが、今回の2連戦だけでは評価が難しいと言える。
“ポスト遠藤”探しは何も今、始まったわけではない。岡田武史監督は長谷部誠&遠藤の攻撃型コンビをボランチに据えた。南アフリカW杯でのベスト16進出は彼らの働きが大きかった。アルベルト・ザッケローニ体制に入ってもコンビは踏襲されたが、その一方で指揮官は柏木や当時スペインのマジョルカでプレーしていた家長昭博をボランチでテストしている。ブラジルW杯で35歳を迎える遠藤の年齢を考えるなら、当然のマネジメントであった。
ザッケローニの通訳を務めた矢野大輔氏の著書『通訳日記』(文藝春秋)には「日本のサイドには走力、クオリティのある選手がいる。しかし試合は中盤で決まる」との指揮官の言葉が綴られている。サイドは内田篤人、長友佑都のサイドバックに、サイドハーフで起用した香川真司、岡崎慎司もその範疇に入ってくる。彼らのクオリティを活かす意味で、中盤のゲームメークを担う遠藤の役割を特に重視していたのがよく分かる。
しかし、期待した柏木、家長が代表に定着できなかったことでザッケローニは“ポスト遠藤”探しを一度中断し、ゲームメーカータイプではなく、カバーリング能力に長けセンターバックとの併用も可能な高橋秀人を常連メンバーに加えていく。それは遠藤にケガなどがあった場合はマルチタイプの長谷部にその任を委ねることを意味していた。
そういったなかでようやくザッケローニを納得させるほどの人材が登場する。それがブラジルW杯前年の東アジアカップで活躍した青山敏弘だった。1本の縦パスで相手守備陣を切り裂くことができるなどゲームメークのセンスは高い。本大会のメンバーに選び、グループリーグ第3戦のコロンビア戦では先発に起用している。
ザッケローニの退任後、新監督に就任したハビエル・アギーレの場合は柴崎をコンスタントに起用していたが、11月に遠藤を代表に呼び戻している。アギーレも彼以上の存在を見つけるには、まだまだ時間が掛かると判断したからだと思えた。
さてヴァイッド・ハリルホジッチである。
デュエル(決闘)の要素を大切にしながらも、柴崎や柏木などボランチのゲームメーカーを探していることは間違いない。個人的には今季、好調のサンフレッチェ広島を支え、運動量や肉弾戦も目立ってきた青山を試してほしいとは思う(彼は3月の2試合に招集され、ウズベキスタン戦でミドルシュートを決めたが、以降は呼ばれていない)。
現主力メンバーと遠藤には長くやってきた分、“あうんの呼吸”がある。そういった意味でも、本田圭佑や岡崎、香川たちとコンビネーションを熟成させていく時間も必要にはなる。つまりゲームメーカーを育てていくという発想も持つべきなのではないだろうか。
柴崎、柏木、そして青山。
誰が真の後継者となっていくのか。ハリルジャパンの命運を握るのはボランチのゲームメーカーに違いない。