第78回 W杯特需を起爆剤に! ~ラグビー・トップリーグ~
最強の敗者――。
ラグビーW杯イングランド大会でエディー・ジャパンは旋風を巻き起こした。優勝候補の南アフリカを撃破して世界のラグビーファンを仰天させると、サモア、米国にも勝った。これまでW杯で1勝しか挙げていない発展途上のチームが、技術力、組織力、精神力で体格に勝る相手を凌駕した。革命的な「ジャパン・ウェイ」に、世界は称賛の声を惜しまなかった。
「最も不運にして、最も勇敢」
大会期間中、日本代表をこう表現したデーリー・テレグラフをはじめ、地元メディアも予選プールで敗退した日本代表との別れを惜しんだ。
W杯の興奮が冷めやらないなかで、ジャパンラグビーのトップリーグ2015-2016が、いよいよ13日に開幕を迎える。
W杯戦士との融合がカギ
今季はイングランドW杯や7人制ラグビーのリオ五輪予選、さらには来年2月開幕の「スーパーリーグ」参戦などがあって、昨季の2ステージ制から1ステージ制に変更される。16チームがA、B2つのグループに分かれて総当たり戦を行い(12月26日まで)、上位4チームが1~8位トーナメント、下位4チームが9~16位トーナメントに出場して順位を決める方式(1月9日~24日)。合計で2カ月超の短期決戦となる。
W杯効果で注目度は大幅アップ。プレスカンファレンスでは報道陣で溢れかえり、開幕戦のチケットの売れゆきも順調だと聞く。人気沸騰のFB五郎丸歩が所属するヤマハ発動機ジュビロとトヨタ自動車ヴェルブリッツの一戦はチケット開始からわずか1週間で売り切れてしまったそうだ。
リーグ戦を占うと、今季はどうしても混戦の気配が漂う。強豪が開幕から実力どおりに戦えるかと言えば、クエスチョンマークがつく。というのも、日本代表メンバーはW杯に向けて目いっぱいやってきて、チームに戻ってきてもフィットする時間が十分ではない。コンディションも急ピッチ上げていかなければならないという苦しい事情も垣間見える。
短期決戦ゆえに1敗でもすると重くのしかかる。下剋上の要素を十分に秘める方式だと言える。
だが、W杯戦士にとっては出遅れてしまう可能性があるとはいっても「マイナス」よりも「プラス」の要素が多いのも事実。W杯の勢いをチームに持ち込むという側面があるからだ。たとえば五郎丸のプレーを一目見ようとヤマハの練習場にファンが集まることで、メンバーのモチベーションにつながっていくはず。
代表帰りの選手たちがフィットするまでの時間を、周りがカバーできるかどうかも見どころになってくる。
優勝候補が開幕戦で激突
2連覇中のパナソニック・ワイルドナイツが今季もリーグの中心になると言っていい。
世界的な名将ロビー・ティーンズの存在が大きいばかりでなく、戦力は今年も分厚い。キャプテンのHO堀江翔太、SH田中史朗ら5人のジャパン戦士を抱えるとともに、元ワラビーズ(オーストラリア代表)で51キャップを誇る万能SOベーリック・バーンズの充実ぶりも頼もしい。また、新加入のFLベン・マッカルマンはワラビーズの一員としてイングランドW杯に出場し、準優勝に貢献している。
なかでも期待したいのが、サモア戦でロール(回転)を使ってタックルに来た相手をヒラリとかわしてトライを決めたWTB山田章仁である。アメフトのXリーグに出場した“二足のわらじ”で注目され、昨季からスーパーリーグに参戦を果たした脂の乗ったプレーヤーである。注目されればされるほど力を発揮するタイプ。昨年のプレーオフ決勝でも1トライ、2アシストで3度目となる大会MVPに選出された。トップリーグに注目が集まる今だからこそ、高まる世間の関心を力に変えていける存在である。
そのパナソニックと13日の開幕戦で対戦するのがサントリー・サンゴリアス。昨季はプレーオフ進出を逃がしているが、「アグレッシブアタッキングラグビー」には磨きが掛かっている印象を受ける。PR畠山健介、SO小野晃征ら6人の日本代表が名を連ねるなど、タレント揃い。サモア代表SOトゥシ・ピシも、日本と戦ったことで広く知られるようになった。荒々しくもクレバーなピシのプレーが、チームを盛り立てていくことになる。
巻き返しを図るキーマンとなるのが、CTB/WTB松島幸太朗ではないだろうか。松島と言えば、あの南アフリカ戦を思い浮かべる人は少なくあるまい。同点のまま迎えた後半30分過ぎ、SOハンドレ・ポラード(南アフリカのスター選手は今季、NTTドコモレッドハリケーンズに加入)の突進を食い止めてトライを阻止したことが、勝利につながった。
天性のスピードと抜群のステップワークはまさにワールドクラス。そればかりでなく、身体能力を活かしたタックルも、一級品であることをW杯で証明してみせた。
今年、W杯を控える彼にインタビューをする機会があった。昨年5月のサモア戦でポジションをセンターで起用されたが「ディフェンスの難しさ」を語っていた。
「ウイングは守備機会が少ないのに対して、センターはいちばん難しいディフェンスも求められるポジションなのでいろいろと考えさせられました。体力の消耗という点でもウイングとは全然違います」
不慣れなポジションでディフェンス力を向上させ、大舞台でポラードを止めたのである。まだ22歳と伸び盛りであり、グレードアップした姿を見せてくれるに違いない。個人的にはFLツイ・ヘンドリックとのイマジネーション溢れるコンビネーションも楽しみだ。
昨季の雪辱誓う神戸に注目
昨季2位で五郎丸を擁するヤマハ、昨季3位の東芝ブレイブルーパスも優勝を狙えるだけのポテンシャルは十二分にある。東芝はNo.8リーチ・マイケル、LO大野均、WTB廣瀬俊朗と経験豊富なチームに、南アフリカ最優秀コーチの経歴を持つジェームズ・ストーンハウスがアシスタントコーチに加わったこともプラスポイントだ。
そして東芝と同じく昨季3位、神戸製鋼コベルコスティーラーズも面白い。
ファーストステージ、セカンドステージとリーグ戦ではいずれも1位になりながら、プレーオフ準決勝でヤマハに屈した悔しさが彼らには強く残っている。新ヘッドコーチに、平尾誠二ゼネラルマネジャーが「世界屈指の指導者」とほれこむアリスター・クッツェー氏を招聘。南アフリカ代表のアシスタントコーチ、ストーマーズ(スーパーリーグ)のヘッドコーチとして辣腕をふるってきた経験豊富な指揮官だ。
10月のプレシーズンリーグ決勝ではサントリーを破って優勝。今、勢いが最もあるチームだと言っていい。PR山下裕司、HO木津武士、LO伊藤鐘史とFW陣にジャパン戦士を多く抱え、12年ぶりの優勝に向けて鼻息が荒い。
今季トップリーグは40万人の観客動員数を目指している。
W杯効果、五郎丸ブームもあるが、一番はラグビーの醍醐味を伝えていくことが人気定着の何よりの近道になる。
このW杯特需をラグビー人気の起爆剤とするためにも、エディー・ジャパンに負けないような白熱した試合を期待したいものだ。
なお、ジャパンラグビー トップリーグは、J SPORTSで生中継を中心にリーグ戦毎節4試合以上放送する。注目のリーグ戦開幕節は全8試合放送。
【放送予定】※時間は放送開始時刻
第1節
11月13日(金)
18:50~ パナソニックvs.サントリー(J SPORTS1)
11月14日(土)
11:30~ リコーvs.NTTコミュニケーションズ(J SPORTS1)
11:30~ 豊田自動織機vs.NEC(J SPORTS4)
11:50~ NTTドコモvs.コカ・コーラ(J SPORTS2)
13:50~ 東芝vs.クボタ(J SPORTS1)
13:50~ トヨタ自動車vs.ヤマハ発動機(J SPORTS4)
13:55~ 近鉄vs.ホンダ(J SPORTS2)
11月15日(日)
12:50~ 神戸製鋼vs.キヤノン(J SPORTS3)
※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。