武藤がハットトリックを演じたかと思えば、宿敵とのダービーで香川が先制ヘッドをたたき込むなど、ブンデスリーガでは今季も日本人選手の好調が続いている。

 

 そんな中、わたしが瞠目させられている選手がいる。ハノーバーでプレーする清武である。

 

 大黒柱のシュティンドルを引き抜かれたこともあり、今季のハノーバーの前評判は芳しいものではなかった。

 

 実際、開幕戦で昇格組のダルムシュタットと引き分けると、その後は泥沼の5連敗。降格へ向けて一直線かと思われた。

 

 しかし第7節、昨季2位のボルフスブルクと敵地で引き分けたことで潮目が変わる。値千金にして難易度Eの同点ボレーを決めたのは、ケガでシーズン序盤を欠場していた清武だった。

 

 これでようやく一息つくことのできたハノーバーは、続くホームでのブレーメン戦を清武のアシストによる1点を守りきり、待望のシーズン初勝利。第9節はアウェーでのケルン戦だったが、ここも1-0でしのぎきり、一気に降格ゾーンからの脱出に成功する。

 

 もとよりその技術には定評のあった清武だが、プロに入って初めて背番号10を背負った今季は、今までとは少し違った姿を見せている。なんというか、佇まいが凛としてきたのである。

 

 昨季までの清武は、セットプレーのキッカーを任されるなど、チームからの信頼を受けている割に、どこか遠慮しがちなところがあった。それはある意味、海外でプレーする日本人の典型的な例だったと言ってもいい。

 

 だが、今季は違う。ひとまず降格ゾーンを脱出したとはいえ、ハノーバーの戦力は十分とか言い難く、それは清武自身もよくわかっているのだろう。プレーの端々に、「チームを引っ張るのは自分だ」という強い自覚、自信をうかがうことができる。

 

 敵地で先制され、その後も押されながらも勝ち点3をゲットした第11節のハンブルガーSV戦。清武は1得点1アシストの活躍だったが、その1点は自ら志願して蹴ったPKによるものだった。

 

 決めて当然、外せば大問題となるPKは、どんな選手にとっても簡単なものではない。それが0-1で負けている状況ともなれば尚更である。

 

 だが、ブンデスリーガはもちろんのこと、JリーグでもPKを蹴っていた印象のほとんどない清武が、この時は周囲の顔色を一切気にすることなくスポットに入り、落ち着いてGKの逆をついた。

 

 いまのところ、日本のファンの目は派手な活躍を見せる香川や武藤に向いている。だが、苦しい状況を一人で打開すべく奮闘する清武の評価は、ドイツでも確実に上がってきている。次の代表戦でも、そのプレーぶりは要注目である。

 

<この原稿は15年11月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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