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(写真:左一発で挑戦者を退けた内山)

 31日、ボクシングの世界タイトルマッチが東京、大阪、愛知の3都市で行われた。東京・大田区総合体育館でのWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチは王者の内山高志(ワタナベ)が同級7位のオリバー・フローレス(ニカラグア)に3ラウンド1分47秒TKO勝ちを収め、11度目の防衛を果たした。WBA世界ライトフライ級タイトルマッチは王者の田口良一(ワタナベ)が同級7位のルイス・デラローサ(コロンビア)を9ラウンド終了TKOでV2を達成した。

 

 エディオンアリーナ大阪で開催されたWBA世界フライ級タイトルマッチは王者の井岡一翔(井岡)が同級2位ファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)を11ラウンド1分57秒TKOで下し、前王者との再戦で返り討ちにした。一方、IBF世界ミニマム級タイトルマッチは王者の高山勝成(仲里)が同級8位のホセ・アルグメド(メキシコ)に9ラウンド負傷判定で敗れ、王座から陥落。愛知県体育館でのWBO世界ミニマム級タイトルマッチは、王者の田中恒成(畑中)が同級4位のビック・サルダール(フィリピン)を6ラウンドKO勝ちで初防衛に成功した。

 

 KO締めで拳闘界の主役をアピール

 

 大晦日と言えば、KOと言えば、内山である。5度目の大晦日でメインを務め、代名詞のKO勝ちで2015年を締めた。

 

 ガウンにリングシューズ、そしてグローブも黒。チャンピオンは何にも染まらない強さを纏い、独特のオーラを醸し出していた。勝つか負けるかではなくどう勝つか――。多くの者が焦点をそこに置いていた。

 

「調子がすごく良かった」と語った内山だが、初回からエンジン全開ではいかなかった。無理に飛び込むこともせず、手数もそこそこに慎重なスタート。これにはコンディションが良い上に「力んでしまうことが多かった」という過去の教訓からあえて抑えてのものだった。コーナーに戻っても余裕の表情でセコンドの指示を聞いていた。

 

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(写真:直撃こそなかったが、右のストレートは威力十分だった)

 2ラウンドは1分10秒に右、1分30秒には右からの連打で左のボディを当てる。これは完全にヒットはしなかったが、徐々にフローレスとの距離感を掴み始めているように映った。左ジャブでリズムを作りながら、オーソドックスなスタイルでじりじりと詰め寄る。立ち上がりの2ラウンドは、優勢に進めた。

 

 陣営からは「中盤からペースを上げろ」と言われていた内山だが、3ラウンドで勝負を決めた。1分34秒、ディフェンスが上に意識がいっていた挑戦者のスキを見逃さなかった。「狙っているものではなかったが、空いていると感じた」。左ボディを一閃した。レバーブローが入ると、次の瞬間、フローレスはキャンバスに沈んでいた。

 

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(写真:ダウンをとり、コーナーでカウントを待つ)

「スピードで乗った感じで、いいタイミングで入った。(立ち上がるのは)たぶん無理だと思いました」と内山。レフェリーはカウントを6まで数えたが、立ち上がる気すら見せない挑戦者に両手を大きく振った。試合後、フローレスは「あまりに的確な左がレバーに入った」と舌を巻いた。1分47秒TKO勝ち。ひと回り年下、24歳のチャレンジャーを全く寄せ付けなかった。

 

 11月に36歳になったばかりだが、衰えは感じさせない。本人も「気持ちが充実しているので、まだ3、4年はやれる。年齢は気にしていない」と口にする。ベルト奪取から約6年、王座を守り続けている。2月には日本人初のスーパー王者に昇格し、盤石のチャンピオンロードを歩み続けている。11度目の連続防衛回数は、日本人歴代単独2位に躍り出た。具志堅用高が持つ最多記録まで、あと2つ。内山は「偉大な大先輩。近付いているかどうかはわからないが、ビッグマッチを含めて超えていきたい」と語った。

 

 次なる標的はWBAフェザー級前王者のニコラス・ウォータース(ジャマイカ)か。内山は「決まったらやりたい。勝つ自信はある」とプライドを覗かせる。所属ジムの渡辺均会長は「私は世界中のどの選手よりも強いと思っている。絶対勝てる。期待してください」と会場のファンを沸かせた。次戦は4月以降を予定。国内か初の海外進出を果たすのか。無敗の王者の動向に注目が集まる。

 

 起死回生の左

 

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(写真:田口の逆転劇のキーとなった左ボディ)

 田口が得意の左ジャブとボディで試合をひっくり返した。

 

 4度目の世界挑戦に意気込むデラローサに序盤から押された。インファイトを挑んでくる挑戦者は、大きく振り回した右フックを当ててきた。「相手の気迫が殺気立っていたので、飲み込まれてしまった」。田口は自分のペースで試合をすることができなかった。

 

「相手の土俵」という近い距離での打ち合い。5ラウンドまで田口は手数で劣っていたわけではないが、ジャッジによっては印象が分かれそうな展開だった。「このままだとヤバいと思った」と田口。セコンドからはジャブの少なさを指摘され、リーチを生かし距離をとる選択をした。

 

 その作戦が功を奏す。「とりあえずジャブだけ打とうとしたら、意外にペースを持って行けた」。リズムを掴んだことで、徐々にパンチが当たるようになる。7ラウンドからは左ボディ、左フックを当てて相手をフラつかせる。特に左のボディは「ガードの上からも(デラローサが)声が出ていた」と効き目十分だった。

 

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(写真:思い出の地・大田区総合体育館で防衛を果たした)

 8ラウンド以降はデラローサの出足も明らかに鈍ってきた。田口がジャブで自分の距離を掴みながら攻勢を掛ける。デラローサはクリンチで逃げる場面が目立つ。9ラウンドはロープ際に追い込み、フック、アッパーが顔面をとらえ、左ボディも効果的に打った。デラローサは戦意を失い、足を使ってリング上を逃げ回るしかなかった。

 

 10ラウンド開始の時間になっても、デラローサは椅子から立ち上がろうしない。レフェリーが田口に近づき、左腕を掴んで掲げた。劣勢から見事な逆転TKOを見せた王者だが、その出来には納得がいっていない。「本当にすみません。次頑張ります」と観客に頭を下げた。

 

 今後については「ジムに任せる」という田口だが「気がかりにしているのがWBA暫定王者。そこをクリアしないと気持ちがずっとある」とランディ・ペタルコリン(フィリピン)の名を挙げた。また29日の結果により、IBFには八重樫東(大橋)が王座に就き、WBCは木村悠(帝拳)と日本人王者との統一戦も期待される。

 

(取材・写真/大木雄貴、文/杉浦泰介)